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ギタリストの周辺(4)

 

編曲とはなんだろう?

今日はこの問いに、私なりにちょっとだけ真剣に向き合ってみたい。

 

基となるメロディー、うた、あるいは楽曲があり、それをオリジナルとは違う楽器や編成のために《音を組み直す》こころみである。クラシック作品の編曲(アレンジメント)は多くの場合、作曲者が書いた音符を出来るだけ忠実に他の楽器に引き写すやり方をとり、これを”転写”と言う。だが、例えばピアノ作品として書かれた曲をギター演奏用に寸分違わず100%転写することは、音域、音数の面から不可能なことがほとんどである。

 

ここで編曲はふたつの道に分かれる。100%の転写が不可能な中で、それでもなお音の変更、あるいは音の削除を「演奏が不可能な箇所のみ」にとどめ、可能な限り原曲に忠実に再現しようとする編曲姿勢。ここでは仮にそれを【消極的編曲】と呼んでおこう。演奏に際しても、オリジナル楽器でのニュアンスを極力再現するよう楽譜を通して要求するタイプである。これに対し、編曲で演奏する楽器の “演奏法” や “都合” に極力寄り添うためなら、音の変更や削除、逆に増量までを躊躇なくやってしまう編曲姿勢。それをここでは仮に【積極的編曲】と呼ぶことにする。

 

そして実際には、消極的編曲と積極的編曲のあいだに無数の中間値が存在している。これは作品を聞き手にどのように届けたいかによるので、「どちらの編曲姿勢が、より好ましい」などと割り切れる話ではない。そう、編曲者が「作品をどのように届けたいか」なのである。

 

話が多少それるが、クラシックの分野では古典時代に特にもてはやされた「~の主題による変奏曲」という作曲スタイルがある。あれは当時の有名な民謡やオペラのアリアを素材にして、編曲と作曲を同時にやっている、ということになる。ソルの『マルボローの主題による変奏曲』『魔笛の主題による変奏曲』などはその例である。それは作曲動機としては一見《メロディー(旋律)ありき》のスタイルに見えるが、人が既知のメロディーを耳にする時、実際はそのメロディーに付随するコード進行(和声)もセットでイメージしており、ほとんどの”変奏曲”というものは、この無意識下のコード進行が主題(テーマ)となっている。同じコード進行を維持しながら、それに付随する周辺を変化させてゆく、というやり方だ(もちろん旋律を維持していく変奏曲作品も中にはある)。フォリアなんてものは定型の旋律はなく、あのコード進行とリズムが ”フォリアの実体そのもの” であるから、変奏曲というスタイルには特に ”うってつけ” だったのよ。

 

だいぶ脱線したが、以上はクラシック作品の編曲話である。ジャズやその他の分野では、編曲と言うと「コード進行そのものをいじる」ことが多い。有名な曲のハーモニーそのものをガラッと変えることで、聞く人の無意識下に流れるコード進行とのあいだにギャップを起こさせ、もてあそぶやり方だ。これをリハモニゼーションという。武満の『ギターのための12の歌』などは、リハモニゼーション自体は少ないが、お得意のカットアップ手法などを用いたり、各声部の独立した動きをより強調することで「(武満的?)クラシカルな手法によるポップス作品」として仕上げた編曲例である。

(つづく)

 

2024.06.28.

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