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旅の途中

 

GW真っ只中の5月5日にむかえるイヴェント「クラシック・ギター音楽史」を現在準備中の私であるが、振り返れば、年明けのソロ・コンサートを終えた直後から三ヵ月間、この音楽史イヴェントとひたすら向き合ってきた。「生徒さんたちを対象にする」とはいうものの、ひとくちに ”生徒さん” と言っても、「今、練習してる曲を作った A.カーノって、いつ頃の人?」というひともいれば、「『アメリアの遺言』何番の歌詞のアーティキュレーションを採用するか?」というひとまで本当にさまざまであるのよ。

それら全員の欲求を同時に満たすことなんて到底無理、、、と早い段階からあきらめている私。これはコンサートの企画で直面する状況となんら変わりはない。そんな時は自分が ”なに” を ”どう” やりたいか、エゴをむき出しに突き進むほうがいい。そして最終的に大切になるのが、「それをどうポップ化した形で皆様に提供できるか」。

三か月の準備期間を経た今、私のあたまの中には、整理されていない大変な情報量が渦巻いている。ここからは「知っていることを如何にしゃべらないでいるか、、、」という最終的な選別と調整の段階に入る。「アイディアは産み出すより削る作業の方がよっぽど大変」とは人気漫画『ワンピース』の作者、尾田栄一郎氏のことばだが、その通りだなと思う。

だが、この準備という名の ”旅” の途中に遭遇する様々なことは、最終的におもてに出てこないものだとしても、自分にとっては非常に大切であり必要なものなのだ。

ちなみに今回、演奏面はすべて加藤優太先生、松本富有樹先生のおふたりにおまかせしてあるので、私がひとりで進めるわけではないのが心強いかぎりである。選曲に関しては「この時代の作品から一曲」「この作曲家の作品から一曲」というオーダーを出し、彼らに選んでいただいた。ブローウェル作品からは『黒いデカメロン』より「戦士のハープ」が演奏されるが、それもあって『黒いデカメロン』について調べていたら、二年ほど前の、とあるブログ記事が目に留まった。

現在スイスで活動してあるギタリスト、日渡奈那さんが『黒いデカメロン』について個人的に謎を感じ、追跡された体験を綴ってあるのだが、その追跡という ”旅” の途中に、彼女の中で次々と芽生える新たな疑問や好奇心に対して、読んでいて非常に刺激と感銘を受けた。

(彼女のこの記事に目を通された方はおわかりのように)彼女が最初にいだいた謎は、結局ナゾのままなのだが、謎そのものが解明されることよりも、それにむけて動いた彼女の好奇心、そして行動、、、そちらのほうがより尊く、たいせつなものだと感じた。旅の終着点を目指しながらも「そこに辿り着けたかどうか」より、その途中で何を見、どう感じたか、、、こちらのほうがその後の指針になり糧にもなる気がする。

 

2023.04.24.

 

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“旅の途中” への11件のフィードバック

  1. S.Hongou より:

    ご照会いただいたブログを読ませていただいたのち、「黒いデカメロン」を久しぶりに聞いてみました。初めて聞いたとき、「……」でしたが、
    音や旋律を楽しみながら聞いている中の人がいました。
    少しずつ、いろんなものが聞けて、弾くことにチャレンジできるように。

    やっと旅のための準備が始まったところでしょうか。

    5日のコンサート、楽しみにいたしております。

    • 松下隆二 より:

      S.Hongouさま
       
      私の十代後半は、「古典音楽が基本」という周囲の大人たちの決まり文句に違和感と反発を覚えながら、現代音楽のほうからギター音楽にのめりこんでいったのを思い出します。
      R.ディアンス、F.クレンジャンス、S.ラック、A.ジナステラ、、、そんな中で当時ひときわ光を放って見えたのがL.ブローウェルの作品群でした。
       
      響きの色彩感やインパクトのみに頼ることなくロマン派や古典のギター音楽が心底楽しめるようになったのは、私の場合、30代過ぎてプロのオケマンからアドバイスを受けるようになってからでした。

      • S.hongou より:

        >響きの色彩感やインパクトのみに頼ることなくロマン派や古典のギター音楽が心底楽しめるようになった
        このお言葉、とても気になります。プロのオケマンの方のお言葉も。

  2. 富川勝智 より:

    これは僕も疑問に思って昔調べたことあるのですが、フロベニウスのものもボッカッチョのものともまったく無関係というのが「黒いデカメロン」という作品だそうです。結局どの原作(?)にも同じ話はないというのがブローウェル本人の談。つまり作曲者の自由な創作ですね。
    実は僕もフロベニウスとボッカッチョ両方読んだのですが、まーるで出てこない!ということをしてしまった1人です 苦笑

    • 松下隆二 より:

      富川勝智さま
       
      おお~っ!これまたなんと貴重なお話、ありがとうございます。
      富川先生もこの件、追跡経験者であられたのですね(笑)
      さすがだな~~みなさんすごいな~~

  3. 近藤將来 より:

    私も先日から黒いデカメロンを練習し始めました。これまで何度もトライして諦めトライして諦めを繰り返してきた曲を今の自分はどこまで弾けるのだろうか?とおもむろに楽譜を引っ張り出して改めてこの曲の素晴らしさを感じているところです。黒いデカメロンとはなんぞや?については、ブックレットの知識のみで、松下先生のお話と日渡さんのお話を読んで自分にはやっぱり好奇心•探究心がないなぁと痛感させられました。
    そして、山口ギターコンクールの前日に発表会で演奏し、松下先生からの指導を受けたことを思い出し、あの頃から変わっていない自分に腹が立ちました。それと同時に好奇心や探究心をもっと持てると、自分の演奏に何かしらの影響が出るのかもしれないとワクワク感も感じています。
    とても刺激になった話題提供を有り難うございます。

    • 松下隆二 より:

      近藤將来さま
       
      うわー、なんだかうれしいコメントありがとうございます!
      しかしいつもは寂しい我がブログですが、今回めずらしく賑わっているのは、この『黒いデカメロン』という作品が、多くの人の好奇心や探求心を駆り立てるだけの ”なにか” をもっているということなのでしょうか、、、。
       
      来月末の北九フェスでお会いできるのを楽しみにしています!

  4. カレーは飲み物ですか? より:

    はじめまして。
    いつも楽しく拝見させて頂いております。
    ブローウェルのお話、とても興味深く読ませて頂きました。
    私も、ギターはそんなに弾けないにもかかわらず、「黒いデカメロン」についてはずっと気になっており、小説の中にもそれらしきものが無く、いつの間にか放置状態に…
    あるとき、ブローウェル先生と親しい某有名ギタリストの方とお話できる機会があり、ここぞとばかりにその事を恐る恐るお尋ねしたところ、原作からインスピレーションを得たブローウェル先生の創作である事を知った次第です。
    しかしながら、この度松下先生のブログを拝見し、また日渡氏のブログも同時に読ませて頂いて、そこに至るまで(もしくは至らない)過程と、追求心(あまりにも簡単な言葉ではありますが…)に、感銘をうけております。
    簡単に結論を得られることの有り難さと同時に、そうでないことからでしか得られないであろう、私には想像のつかない世界がそこにはきっと在られるのでしょうか…
    突然失礼致しました。
    松下先生、日渡氏のお二人に感銘を受けました。

    • 松下隆二 より:

      カレーは飲み物ですか?さま
       
      うれしいコメントいただきありがとうございます!
      (しかし深く考えさせられるネーミングですな、、、)
       
      日渡さんによると、あのブログ記事を出された直後に富川さんをはじめ高田元太郎さん、中島晴美さんといったギタリストの方々がいろんな情報をコメントしてくださったそうで、それに関する記事は 2021年5月31日の日渡さんのフェイスブックに掲載されてあるとのことです。
       
      私はフェイスブックが見れない人間なので、いまだ目を通せておりませんが、もし御興味ありましたら是非そちらの方もどうぞ。
       
      ちなみにあの日渡さんの文のなかで私が最も感銘を受けたのは「とても長いまわり道をして、ふりだしに戻ったような気持ちになった。でも、これでいいのかもしれない。ブローウェル氏にメッセージしたとき、私は自分の頭の中で永遠に続いてしまいそうな螺旋を断ち切って欲しいと思っていた。でもそれは他人にしてもらうものではないのかもしれない。」というあのくだりです。
      あんな知的かつ格調高い文章は、私にはとても書けません。

      • カレーは飲み物ですか? より:

        松下様
        知的かつ格調高い文章… 仰る通りですね。
        そして松下先生の日渡氏へのリスペクトと謙虚な立ち振る舞いにただ感動させられております。
        芸術のことはわかりませんが、なんとなくそんな異次元の空気感を、ブローウェル先生の音楽をきっかけにお裾分け頂いた気を勝手にさせて頂き、幸せな気持ちでおります。ありがとうございます。

        • 松下隆二 より:

          こちらこそお読み頂きありがとうございました。
          いつの日か直接ご挨拶できる日がありますように。

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