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サラッと、ザラッと、、、

 
高校生の頃の一時期、自分以外のメンバーは全員社会人というバンドに所属していたことが
ある。ロックバンドとしては総勢8~9名の比較的大所帯と言えるバンドだったが、ライヴが
終わるたびにメンバーのひとりから「松下!お前ステージ上でもっと動け」
「突っ立って弾いてんじゃねーよ」とよく怒鳴られていた。
要はノリノリでプレイしているかのような演出を求められたのだ。
それでも私は動くことなく、ギタープレイにひたすら集中し続けた(当時から頑固だった
のか?)。
 
 
だが最近は80年代当時のロックミュージシャンのステージングをyou tubeで観る事が出来る
ものだが、歌手のバックでギタリストとベーシストが横並びで仲良く横揺れの動きをそろえて
いるのを見るにつけ、「そうか、、、これが当時の洗練された最先端の動きだったんだ」
「当時これを俺にさせたかったんだな」と理解すると同時に、
「やらなくてよかったな、、、」とも思ったりするのである(笑)。
 
 
時代や流行と関係ないところでザラッとなまなましく創作されたものは、時代が変わっても、
それそのものが持つ刺激は劣化しない。
一方で時代に適応させ洗練をほどこして作り込んだものほど、時が経つと古臭い。
 
 
巨匠を例に出して申し訳ないが(権威主義的に引き合いに出した訳ではない)、【アンドレス・
セゴヴィアの音】は洗練されたものと粗削りなものの”玉石混合”である。ザラッとした
生々しい(単独で見ると汚い)音がたくさんある中で、時折洗練させた極柔の単音を
”ポ~ゥ!”と響かせる、いわば「ギャップ萌え奏法」。
あの卑怯な奏法で世界中を魅了したセゴヴィアだが、少し先輩や同世代の巨匠演奏を聴くと、
もっとストレートな演奏だったりする(例:M.リョベート、A.バリオス、R.S.デ・ラ・
マーサ)。
当時でもアクの強い”コテコテの方言”ともいえるセゴヴィアの演奏。お叱りを覚悟で敢えて
言うが、決して”洗練された世界”ではない。だがそこが多くの人をひきつける理由のような気が
してならないのである。

 
80年代は総じて洗練の時代であった(あとは”軽さ”の復権。つまり85年にフランスから帰国し
た福田進一氏の持つキャラクターは、時代の要請に非常にマッチしたということなのである)。
セゴヴィア次世代のギタリストたちは、世界中で”脱ロマンティック”な技術を提唱し、合理的
奏法でギターの世界を浄化していった。
結果として”80年代以降の音楽を演奏するにふさわしい”洗練された技術が確立されていった
(それ自体は別に悪いことでも何でもない)。
しかし同時に、ヨーロッパにおいて長きにわたって君臨してきた《ロマン派の演奏スタイル》が
80年代という時代によって「過去の暑苦しいもの」として切り捨てられてしまった感は
否めない。
 
 
ザラッとした一見粗削りなものは意外と時代を超える。
時代に忖度しながら洗練させたものは急激に色褪せる。
そして音楽に限らず、洗練されたものを一度手にしてしまった人は、なかなかそこから離れられ
なくなる。
 
以上が80年代を振り返った時に、個人的になんとなく感じ続けている教訓である。
 
2019.8.25.
 

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“サラッと、ザラッと、、、” への2件のフィードバック

  1. 柳武史雄 より:

    もしかして、前半で紹介されているバンドというのは、同時期に僕も在籍していた ”あの” バンドのことでしょうか?
    演奏中あまり動かない僕でも、特に指示を受けておりませんでしたので、松下先生は本当に “微動だにせず” 演奏に集中しておられたのでしょうね!
    ところで、当時プロモーション用(?)にメンバー全員で撮影した写真数枚をまだ所持しておりますので、もしもご覧になりたいようであればご連絡ください!

    • ryuji より:

      柳武史雄さま
      おおっ、初コメントありがとうございます!
      いやいや、柳武さんは動かれなくてもサウンド面でばっちり貢献されてたから。
      私の場合は「せめて動け!」ってことだったんでしょう(笑)。
      写真今度見せてください(そんなのあったんだ)。
      ”あのバンド”を経てその後、柳武さんはジャズの世界、私はアングラの世界へ、、、。
      9月28日はよろしくお願いいたします。田口さんとの”どジャズデュオ”、楽しみにしています!

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