唐人町ギター教室では、楽譜が読めない初心者の方からプロを目指している上級者まで、現役プロミュージシャンが丁寧に指導致します

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親愛なる先生(坂本一比古編その3)

 
ギターは“習い事”としてなんとなく続けていた。
 
 
高校1年生のある日、例によって父の客の前で演奏させられた私は、その客から「演奏に
心がこもっていない。」というありがたい説教を受けた。
その人は本当はフォークシンガーになりたかったが、あきらめて今の仕事をしている、
との事。だがそんな事情はこっちの知ったことではない。厭々演奏させられた上おまけに
難癖つけられ、まさにはらわたが煮えくり返る思いだった。
 
だがその人の言ったことはその後も心に引っかかるものがあった。心をこめるって何だ?
どういう風にすればいいんだ?
あの客は僕のギターを取って何曲か弾き語りをした。確かに心をこめて歌っているように
見えたけど、それでも別にこっちは感動しなかったぞ、、、。弾き手が心をこめるのと
聴き手が感動するかどうかは必ずしも結びつく事ではないんじゃないか、、、?
 
 
日頃考えない事をそんなふうにいろいろ考えだすと、だんだんイヤになってきて、急にギ
ターをやめたくなった。それまで空気のように感じてきたギター演奏に対し、急に真剣に
向かい合ったせいかもしれない。どっちにしろ衝動的な感情であり、今に至るまで「ギタ
ー演奏をやめたい」と思ったことはあの時一回しかない。
 
 
レッスンに行き、早速先生に「やめたいと思います。」と伝えた。
坂本先生は一言「もったいないね。」とだけおっしゃって、あとはどう懐柔されたか覚え
ていないが、とにかく続ける事になった。「まあせっかくここまでやってきたんだし、続
けてみるのもそんなに悪くないんじゃない?」みたいな感じだったと思う。
 
 
ただ私のその“やめたい事件”は思わぬ結果をもたらした。
なんとその翌週からレッスンで採り上げる曲が「古典のエチュード」から「映画音楽」へ
と変わったのだ。
数年後二十歳を過ぎて、先生の“飲み”のお供をするようになってから、飲み屋のカウンタ
ーで先生は当時をこう述懐された。
「実はあの頃松下君で実験してたんだよね。現代モノをやらせないで古典だけで教育した
場合この子はどんな風に育つのかなって、、、」
 
 
(ぼよよ~ん。うそやろ!)
 
 
 
(つづく)
 

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“親愛なる先生(坂本一比古編その3)” への4件のフィードバック

  1. ら・ぶりぶる~ より:

    初コメントです。毎回楽しく読ませていただいてます。松下先生って、やっぱりおもしろい・・・先生の先生も、おもしろい方だったんですね。
    「心をこめる」って、ほんとに難しいですよね・・・「心」がこもってるかどうかなんて、受け取る側の気持ち次第でどうにでも変わっちゃうしな~ってこと、よくありますよね。
    音楽でも言葉でも絵でも、日常の些細な家事でも、自分の思いと相手の思いの波長が、なんとなく合った時、うれしい瞬間がやってくる・・・そんな感じでしょうか・・・?経験で成功率は上がるというものの、やっぱり丁寧に日々を過ごすことが大切なんでしょうね。
    これからも、ブログたくさん更新してくださいね~楽しみにしています。

    • ryuji より:

      ら・ぶりぶる~さんへ
      コメントどうもありがとうございます。
      そうですよね。結局心がこもっているかどうかというような主観的なことよりも、「どうすればその曲の良さが際立つか」ということに対して誠実であればいいと思うんですよね。その結果、人によってはそれが「心のこもった演奏」に聞こえることもあるのでしょう。
      そのとき自分が向き合っている音楽とよい時間を過ごすため全エネルギーを費やす(それが小さな練習曲であっても)、それを日々繰り返すしかないですね。もちろん「音楽やる時だけその姿勢」というのでも不充分で、おっしゃるように「日々の生活」からそうである方が、演奏も自然になると思います。

  2. 先生が時々、おっしゃいますよね。
    この曲に背景、この曲を作ったときの作曲者の気持ち。
    それをかんがえることもできず、楽譜を追いかけ続け、その感触を理解しようと、
    しかし、理解しても、どう表現するのかと。
    先生の仰せのことが、頭で理解しようとしても、指がついてこない。
    焦れば、冷や汗ばかりで、話にならない。
    自分が少しは弾けているのか自信も消滅。
    でも、やめないです。
    やはり、ギターがすきでございます。

    • ryuji より:

      その曲の作られた時代や国のもつ背景は、演奏する上での手がかりとなってくれるでしょうが「作曲者の気持ち」は結局私にはわかりません。でも音楽上の具体的なこと(メロディーとバスと内声のバランス、活き活きしたリズムを出すこと、ハーモニーの特徴を出すこと等)をキッチリとやることで随分そこ(作曲者の気持ち)に近づけるんじゃないかと思います。でもそこはゴールではなく、作品を楽しむ為の「スタート地点」だと思っています。技術面の折り合いもつけていかねばならないので、ぼちぼちいきましょう。旅を楽しみましょう!

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