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ある日常のひとこま

 

先日のことである。

いつものように自宅に帰り着いた私は、勝手口のまえで靴を脱ごうとして、ふと足元にある小さな蜘蛛の巣に目がいった。何の変哲もない蜘蛛の巣であるのだが、その日はいつもとちがうシチュエーションだった。蜘蛛の巣がぶんぶん揺れている。

老眼気味のまなこをよく見開いてみてみると、獲物がかかっているのだ。それはダンゴムシだった。

ダンゴムシは必死だった。幸い住居の主は残業で帰りが遅いのか、旅行に出ているのか留守であったのだが、ダンゴムシがいくらあばれてもがいたところで蜘蛛の巣からの脱出が不可能であることは一目瞭然だった。

ダンゴムシの気の毒な状況を見ているうちに、しだいにその様子が、ジストニアにからめとられ虚しくジタバタしている自分の姿と重なってきた。いやいや、蜘蛛にだってきっと生活があるのだ。人間の勝手な感情で生態系に手出しをするのはよろしくない。う~ん、だがしかし・・・

小学生のころの自分だったら、見た瞬間なんの躊躇もなく迷いもなくレスキューしたはずだ。私は一体なにを背負っているのだろう。これが大人というものか。もはやシンプルなだけでは生きてゆけないのか。そう、世の中というものが複雑にできていることを知ってしまった今、私の判断やフットワークはこんなにも鈍ってしまったのか。

みつめること10分。

結局レスキューしてしまった。蜘蛛ごめん・・・

私は助け出したダンゴムシを、蜘蛛の巣から遠いところまで運びそっと置くと、ようやく家に入った。

ひと仕事終えたかのようにグッタリと疲れがきた。だが部屋に入った後も何故かすっきりしない。果たしてあれでよかったのかどうか確信が持てないままであった。

だが次の瞬間ぜんぜん違う心配が私をおそった。

もし、あのダンゴムシが、ある日《おんがえし》に来たらどうしよう。「わたしはあの時助けていただいたダンゴムシです」とか言ってデッカイやつが来たら・・・うわ~、いやだ~

 

2025.10.27.

 

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