唐人町ギター教室では、楽譜が読めない初心者の方からプロを目指している上級者まで、現役プロミュージシャンが丁寧に指導致します

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また来年、、、

 

生徒さんをレッスンしていて ときどき動体視力 動体聴力 動体感覚の話になる  

 

どういう内容かというと 動いている速度に対してどのくらい先を見ながら進んでいるか という話 例に出すのが 徒歩の速度で歩くのと 自転車に乗って進むのと 車を運転しながら進むのでは 前方を見る距離を変えないと大変なことになる こちらが動く速度に準じて 様々なものが目の前に迫ってくるのだ

演奏の時もこれと同じで 弾いている速度に見合った《先の見え方》が必要になる つまりゆっくりの曲の場合 1~2拍先を見て その距離感をある程度保ちながら進めてゆくことができるが テンポが速い曲は その時弾いている小節のひとつ先の小節に 見通しをつけておかないと 演奏を続けることができない そして時には ワンフレーズ全体をバッと瞬時に大づかみして 弾いたほうが良い場合も多々ある

ところが生徒さんの演奏を聴いていると たまに《歩きスマホ》さながらの方がいらっしゃる 目の前の景色は動き続け どんどん自分の前に迫ってきているのに それに見合った距離感覚を発動していないのだ

演奏の際 曲のテンポというものは 演奏者自身で決めるものだ 私がいまさら言うまでもない だが演奏中 本人も知らず知らずのうちに 足早に歩いてしまっていることに気づいてなかったりする

 

先日も 生徒さんにこの話をしながら ふと思ったことがある

「周りの景色(先に在る音)が自分に向かって動いてくる」 これってほとんど天動説じゃないか?

もちろん自分が動き 周りの景色はべつにこちらに向かって動いてきているわけではない それは事実としては正しい だが自分が動いたとき自分の周りが変化して見えるというのは 受け手側の感覚としては ひとつの”真実”ではないか、、、

例えばコンサートの日 演奏会場に行くとき「自分がそこに移動する」と捉えるのではなく 自分を取り巻く景色が変わるだけであって 自分はいつも同じ場所にいる という感覚

その時 寒い環境にあろうが 暑い環境にあろうが うるさい環境にあろうが 自分は常に同じ場所にいて 自分を取り巻く空気がただ変化しているに過ぎない そんな感覚

事実ではなくとも これをひとつの”真実”として受け入れると ものの感じ方が以前とは明らかに違ってきて面白い 私がここで思い出すのは剣豪 宮本武蔵にまつわる小倉時代の以下の話

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ある客が、「兵法修行というものを、どう心得ればよろしいか」

ときいたとき、武蔵はすぐさま畳のへりを指さした。

「あのへりをお踏みなされ」

「このように?」

と、客は立ちあがって畳のへりを踏み、武蔵に命ぜられるまま、踏みつつ歩いた。

「そのへりの幅だけの橋があるとする。それが一間(いっけん/約1.82m)の高さであるとすれば、渡れますか」

「はて」

客は、考えた。へりの幅は足の裏よりもほそいためにこれはすこしむずかしい。

「左様か、されば幅を三尺(1.14m)にふやそう。それで一間の高さならば?」

「それならば渡れます」

次いで、武蔵のたとえが飛躍する。

「その橋が、お城の山から足立山まで天空高く架っているとする。渡れますか」

「とても」

と、客がいった。おなじ三尺幅といっても心が宙に浮いて渡れるものではない。

「本来、三尺幅である」

と武蔵はいう。理屈からいえば渡れねばならぬはずのものが、臆病の心や雑念がそれを渡らせぬようにする。そういう臆病や雑念を吹きはらって本心を不動のものにするのが兵法の修行です。

武蔵はそのようにいった。    「宮本武蔵 / 司馬遼太郎著」(朝日文庫)より

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これって私流に解釈すると 武蔵流兵法の極意も 根は天動説ってこと?(笑)

こう思って昨日のコンサートでは 終日その心もちで臨んだ 

すると なんと終始 落ち着いて弾けたのだ

もちろんすぐに効果が現れたことは奇跡的なこととは思うが これからしばらく その心もちで臨んでみたい

地動説は事実 天動説は精神的真実と捉え 一方が他方を宗教裁判にかけたり かたや「事実を知らない滑稽な思想」と嘲ることもなく その両方を自分の中に共存させることに わずかに光明を見出した私であった 

 

それではみなさまよいお年を

来年もみなさまがお幸せな一年となりますように

 

2021.12.24.

 

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“また来年、、、” への2件のフィードバック

  1. S.Hongo より:

    昨日の発表会では、諸々ありがとうございました。
    あの時間が終わり、こちらのブログを再読いたしました。

    トリオ仲間と、
    発表会のステージは天動説だよね! と言い交わしていたのですが、
    やはり本番は、
    地動説でした。

    ただ、昨日の感触で、
    自分を含め何か高い場所から観ているような気配があるシーンがございました。
    不思議と、心が凪いでいました。

    また本年も精進いたします。
    先生のご企画も、楽しみにいたしております!

    • 松下隆二 より:

      発表会おつかれさまでした
      私自身も昨日は若干地動説でした(笑)

      ヴィラ-ロボスの「ワルツ・ショーロ」
      しっかりと地に足のつかれた演奏でしたね
      今年も Hongo World 楽しみにしています

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