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初見演奏について

 

先日、気弱なブログを書いたが、あれは本気であった。

しかしその後、だれからもなんの音沙汰もなく、これは読者からの「甘えるな!」という意思表示だろうか。「ありゃ?意外とみんな冷たいのね」と、現在なんとなくイーロン・マスク氏のような気分だが、本日のレッスンでたまたま御二人の生徒さんに同じことをお伝えする場面があり、「今語るべきはこれかな、、、」という気がして(勘違いでも何でもいい)ペンをとる、、、もといキーボードを叩くことにする。

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”初見演奏”とはなんでしょう?

すでに御存知かと思うが、初めて見る楽譜をアタマから終わりまで練習なしの状態でいきなりゴーすることである。ゆっくりのインテンポでやるよりも、いきなり曲のテンポでゴーする方が、終えた後の収穫はより大きい気がする。

ちなみに他の楽器にくらべてギターという楽器は圧倒的に初見演奏が難しい。その根拠を以下に挙げる。

 

① 他の弦楽器(ヴァイオリン属など)と同様、「あるひとつの音を複数の個所で出せる」という楽器の機能の問題

② ギタリスト自体、他の器楽奏者に比べ、その学習過程において初見演奏を要求される機会が少ない(アンサンブルよりソロ練習の方が比重が多い)

③ ヴァイオリン属や管楽器などの旋律楽器と違い、初見で和音(コード)を読むことを要求される

 

《①について》

たとえばピアノの場合、楽譜上の”ある音符”を見たとき、選ぶ鍵盤の可能性は”ひとつ”しかない。ギターの場合だと①弦開放弦ミの音が譜面に書いてある時、その音は②弦5フレットでも出るし、③弦9フレットでも出るし、④弦14フレットでも出るし、⑤弦7フレットハーモニクスでも出るし、⑥弦5フレットハーモニクスでも出すことが可能であり、その中から瞬時にチョイスしなければ命を失う。

 

《②について》

これはクラシックギターを始める人の大半が、「ソロを弾きたい」と思って始めることに起因する。他のひと(楽器)とアンサンブルをやりたくて、クラシックギターのキャリアをスタートさせる人はどちらかといえば少ないのではないか(まあ、いきなりマンドリン合奏団に入るケースも結構あるか、、、)。

 

《③について》

旋律楽器のひとびとは、ギタリストほど初見演奏のプレッシャーを感じていない。それは彼/女らが基本的に単旋律(一本のライン)だけを追いかければいいからであるが、さらにタチの悪いことに、彼/女らのほとんどは「ギタリストはピアノ譜をそのまま弾ける」と勘違いしている。いや、勘違いはまだ良いほうで、「え?コードが弾ける楽器なのに、なんか違いがあんの?」くらいの認識といった方が正確か、、、。

 

クラシックギタリストが初見演奏の現場において、いかに崖っぷちのポニョか、以上をもってご理解いただけたことと思う。だがそんな後ろ向きな話は、実際のアンサンブル現場では「へ~けっこう大変なんだ、ギターって。それじゃ取り敢えずいってみよーか!」となるのがオチである。

 

かくいう私であるが、じつは大の初見演奏嫌い&苦手であった。「”初見とトレモロ”苦手の松下」として若い頃から名が通っていた。だがクラシックギターのような楽器でも初見の名手というのは居るものである。彼らの初見演奏を間近で見ていて「そんなアホな!」という言葉が生ぬるいくらい、本当の魔法のように感じたものだった。

私は自分が初見演奏ができないのを「自分の性格が几帳面すぎるからだ」と長らく分析していた。例えば途中で自分がミスをしたところで、脳が立ち止まって反省モードに入ってしまう。初見が得意なひとはきっと人間が繊細じゃないんだ、、、などと思っていたのだ。

だが私は間違っていた。私が几帳面なのは音程(音高つまり”譜面の縦ライン”)に対してであって、拍子(音符の長さつまり”譜面の横ライン”)に対してはズボラだったということなのだ。

 

初見演奏最大のコツは

① 最初の一音を弾き始める前に設定したテンポ(速度)を、弾き終わるまで一定に保ち続けること。

② 音程を取り間違えても気にしないこと。”音程” よりも ”一定のテンポ” を大切にすること。

③ 間違えたらその小節内の音を全部捨ててもいいので、次の小節の一拍目で入るべく待ち構えること。

 

いささか乱暴に感じるかもしれないが、上記の意識で臨めば「曲に乗り続けるここちよさ」が生まれ、気がラクになり余裕も生まれるので、結果として音程もヒットしやすくなってくる。ポップスものでも訓練としての効果は変わらないので、取り敢えず単メロから始めてみることをお勧めする。はじめから終わりまで仮に一音も弾けなかったとしても、「曲が現在どこを進んでいるか」さえ常に見失わなかったら、初見演奏の6割は成功と思っていい。

 

2023.3.13.

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“初見演奏について” への6件のフィードバック

  1. S.Hongo より:

    初見演奏と聞いただけで、走って逃げたくなります。

    決められた時間の中で行うとき、流れを掴むためのリズムソルフェージュがすぐにできず、特に休符の過ごし方に悶絶します。

    なにか、秘伝はないでしょうか。(て、公開していただいたら、秘伝ではないなあ)

    • 松下隆二 より:

      S.Hongoさま
       
      そうですそうです、僕も走って逃げてました。
       
      拍子のキープや、そこに書かれてあるリズムを打ち出す練習として、まずは1弦開放弦だけを使って『リズム初見』をやるとよいと思います。もちろん弾きながら拍子を刻むことを忘れずに!譜面の縦軸は読まず、横軸だけ、というやり方ですね。

      • S.Hongo より:

        ありがとうございます。
        縦軸を気にしてフリーズしても、弾き直さずに、復帰できそうな箇所を掴むのも大事でしょうか?
        つい
        ほい! と弾き直してしまうのはよろしくない練習、、、?

        • 松下隆二 より:

          そうですね。「弾きなおしはクセになりやすい」ということもありますし。
          アンサンブルにおいて横軸を崩壊させることは、音程をはずす以上にA級戦犯扱いされますので、日頃から横軸を大切にする練習を重ねておいたほうがいいでしょう。

  2. 麻尾佳史 より:

    『瞬時にチョイスしなければ命を失う』で声出して笑いました笑 いやでも初見演奏にはそれくらいの覚悟が必要というメッセージだったりして…?

    前回の記事関連ですけれど、お考えをお聞きしてみたい内容たくさんあるので、是非連絡させていただきますね。

    • 松下隆二 より:

      麻尾 佳史さま
       
      ああ、読者に見限られて独り拗ねている私に神が降臨、、、。
      ご質問お待ちしておりまーす!

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