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”コンサート”(その3)

 
コンサートは飲食に例えると多少わかりやすいかもしれない。
 
うまい料理が作れるからといってお店を出しても、必ずしも繁盛するわけではない。
お客さんにとって『お店で味わうこと』というのは、決して「料理のクオリティ」だけの話では
ないからだ。
いくら味がよくても、店内の雰囲気、他のお客さん、店主やスタッフの人柄等に強い違和感を
感じたとしたら、そのお店にはすすんで足を向けなくなるはずだ。『お店で味わう』というのは
コンサート同様、様々な要素が絡んでいる《総合的なもの》である。規模の小さなお店の場合、
オーナー(主催者)がコック(演奏者)を兼任することもよくあるが、その場合二役分の気配り
が必要となるのは言うまでもない。
コック(演奏者)が料理(音楽)のことだけで悩めるというのは、すごーく幸せな状況だと
思う。大概の場合、そこに辿り着くまでの道のりが大変なのだ。
 
 
以下、前回までの話のまとめ&付け足しである。演奏家は主催者がチケットを売りやすくなる
状況を作るのが大切だ。しかしここで話がごちゃ混ぜになりやすいので断っておくが、その
ために「有名曲」を入れることが即、解決につながるという発想はいささか安直なのである。
演奏家にとって大事なのは「そのコンサートの趣旨やコンセプト」を主催者と話し合い共通の
認識を深めておくことなのである。それがお客さんに対する「宣伝のし易さ」「チケットの売り
易さ」につながるはずである。そのうえで「演奏家が前向きに取り組める有名曲」がプログラム
にあれば、申し分ないものになる。
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《お客さん側によくある勘違い》
「コンサートが楽しめなかったのは知らない曲が多かったせい」
 
、、、ではない(、、、たぶん)。
曲との出会い方がうまくいかなかっただけである。
その原因はプレイヤーの提供の仕方だろうか。お客の予備知識、アンテナの感度が足りなかった
せいだろうか。その両方の可能性もある。
 
 
「先入観なく、好きに楽しむ」
 
もちろん構わないが、野球のルールを全く知らない人がテレビで野球中継を見たとき、どこまで
楽しめるのか疑問ではある。
つまるところ、お客としての最高の楽しみ方は
『プレイしている人間と同じ感覚で時間の展開を追えるか』
のような気が私はしている。
「 ”ツーアウト満塁” の緊張感」がわかって見ている人とわからないで見ている人、どちらの方
が、選手に近い緊張感でゲームを楽しめているだろうか。
要は「お客として、より深く楽しむには?」という話だ。
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《音楽の中で展開する「緊張と安らぎの連続」を演奏家と共に味わおう》
 
クラシックやジャズ、民族音楽においても『形式』を知っていることが楽しむうえで重要な場合
がある(例えば『ソナタ形式』『前テーマ~アドリブ~後テーマ』『ボリビアのクエッカは、
イントロ、テーマ、テーマ、キンバ、アウラという構成』などなど)。
 
「音楽はルールや理屈や形式じゃなく、感じるものだ。だから知識なんか必要ない」と公言する
プロミュージシャンも多い。『音楽』というものに対する導入の時点では、その姿勢がいいと
私も思う。
しかしそう公言する人にかぎって、コンサートやライヴを聞くときに自分が形式を把握しそれを
拠りどころとしながら聞いていることを忘れているものである。つまりそういう人ほどソナタを
聞いている時「ああ、今『第2主題』に入ったな」とか、ジャズを聞きながら「アドリブが
3コーラス目に入ったな」とかちゃっかり感じながら聞いているものなのである。だまされては
いけない(笑)。
もちろん主催、演奏者側が「専門的知識などいらない」「感覚だけで受け止めてほしい」という
ことをコンセプトとして打ち出しているコンサートも実際開かれているし、それはそれでいい
ものだと思う。ただそのコンセプト自体に主催者、演奏者側の「(ルールを知っているという)
優越感に基づく欺瞞」を感じてしまうようなものも、中には多々あるのだ。
 
 
今回の話の最後に ” お客さんに意識してほしいこと” がひとつある。それは『それまで知らな
かった曲』というのは、聞き終えた後からはそのひとにとって『聞いたことのある既に知って
いる曲』なのだという、” ごくシンプルな事実 ” についてだ。
聞くことを体験した曲が、そのひとの「知っている曲リスト」に入るのか、入らないか、そして
その選別の基準は一体自分の中のどういう部分にあるのか、を今一度問うてみて戴きたい。
 
そして「知らない曲に出会った」ときに「知っている曲がふえた喜び」をかみしめて欲しい。
そのときのあなたは、すてきな ” 音楽ファン ” である。
 
(おわり)
 

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