唐人町ギター教室では、楽譜が読めない初心者の方からプロを目指している上級者まで、現役プロミュージシャンが丁寧に指導致します

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重い?軽い?(その3)

 
このたびのテーマに関して、わたしの言いたい事は前回までにほぼ語り尽くした感があるので、
今回の投稿文はわりとポストリュード的(あるいは蛇足的?)な内容となる。
 
 
最終回である今回は、「重さ」と「軽さ」が時代によって要求されるケースについて触れて
みたい。
二つの世界大戦は多くの人々のこころに深い傷を残したが、戦後多くのひとびとの価値観は
「重さ」を重視する方向へと向かった。それが何故なのか(あるいはどんな因果関係がある
のか)はわたしにはわからない。
だがあきらかに演奏でも音楽評論でもあるいは作曲面でも「重厚なもの」のほうが風潮的に良し
とされた。
楽器の鳴らし方(ギターであれば右手のタッチ)などに関しても「太く」「重く」「大きい」
ほうが評価されたのである(もちろん楽器製作に関しても、、、)。
 
 
ギター教室のレッスンに関しても「単純明快」なことを言う講師よりも、多少「難解」な理屈を
こねる(えっ?わたし、、、?)講師のほうが奥深そうに見られてもてはやされた。
要は権威的なハッタリがきいた時代であった。
ギターの神、A.セゴヴィアの演奏に関してもセゴヴィアの音のもつ「重厚さ」「奥深さ」等
ばかりがその論評において強調され、セゴヴィアの音のもつ「飛ぶような軽さ」に関して言及
するひとは少なかった。
 
 
だが冷静に考えて欲しい。グランドピアノやクラシックギターの名器を「重厚なタッチ」で
鳴らせるからといって、チェンバロやリュートのような繊細な楽器を鳴らせるだろうか?
答えは逆である。そんな重厚なタッチで古楽器を鳴らそうとすると音がつぶれてしまうのが
おちである。
つまり歴史的楽器をうまく響かせる為には、モダン楽器とは別の<かる~い技術>が必要なので
ある。
 
クラシック音楽界における「歴史的楽器の復権」はいわゆる「軽さの復権」であるとも言える。
その現象は1980年ぐらいから次第に活況を呈し現在に至っている。
いわゆる「権威をもった巨匠達」が次第に姿を消してゆくのとオーヴァーラップするかの
ように、、、。
 
 
 
 
~僕は子供のころからジャズのピアノ奏者はハードに弾くものだと信じて育ったんだよ。
子供のころの僕は、マッコイ・タイナーこそが最高のピアノ奏者だと信じていた。ガツンと弾く
タイプだよ。(中略)それで例えばハービー・ハンコックやチック・コリアのようなピアニスト
の素晴らしさを心から理解できるまでに、僕にはとても時間がかかった~
 
「ブランフォード・マルサリス~偉大なるジャズメンとの対話/神舘和典著(YAMAHA)」
 
 
 
最後に重ねて言うが「どちらのほうが望ましい」などとは今回ひとことも言っていない。
ただ他者を、そして自分を洞察する上で「なにかに気づく」には新たな視点を持つことが大事で
あり、そのきっかけにでもなれば、、、というだけのことである。
 
 
前にも引用したことがあるが、イギリスの作曲家B.ブリテンの評伝を書いたイモージェン・
ホルストは、彼の作曲家としての姿を、こういう書き出しで紹介している。
 
「作曲家はごくふつうの人たちと異なった人種ではない。彼らがその音楽で表現しているものは
ふつうの人たちが考えたり感じたりしていることと同じなのである。しかし、作曲家が考えたり
感じたりするのは、それよりももっと深いところで行われているのである。」
 
ならばそういった作品に職業的にたずさわる私のような人間もやはりそうであるべきだ、と
思っている。深いところで考え、そして感じ、そして何かに気づく、、、音楽を通じて日常の
あり方を教わり、日常を通じて音楽の見方を学ぶ、、、。
 
 
これがわたしの理想だが、、、、う~ん、、、、、、、、、、、重いなあ(笑)。
 
 
(おわり)
 

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“重い?軽い?(その3)” への2件のフィードバック

  1. 中島敬介 より:

    先生、先週の演奏会ではお世話になりました。
    先生のような超一流の方に、私たちのようなアマチュア・グループにお付き合いいただくことを、いつも光栄に思っています。
    演奏会のアンケートを読みましたが、やはり先生のギターの存在感は抜群ですね。
    ありがとうございました。
    それから先生と、一杯(二杯?三杯?)飲みながらジャンルを超えて音楽の話しをするのも、とても楽しみです。
    次は、信愛の演奏会にぜひお付き合い下さい。
    また、ご一緒できる日を楽しみにしています。

    • ryuji より:

      中島先生
      こちらこそ大変お世話になりました。
      いわゆる合唱界の「ウン十年経験者」「全くの初心者」すべてをまとめられ、その活動を牽引していかれるのは大変なこととお察しいたします。と同時にあくまで<市民合唱団>としての形を大切にされる先生のご姿勢に深い共感をおぼえますし、今後のお手本とさせていただきます。
      教えを受けられた石丸寛先生、三浦宣明先生、小澤征爾さん、そしてバーンスタインさんのアドヴァイスなど、貴重で素敵な御話、今回もほんとうに有意義な楽しい時間をありがとうございました。
      またご一緒させて頂ける日を楽しみにしております。

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