唐人町ギター教室では、楽譜が読めない初心者の方からプロを目指している上級者まで、現役プロミュージシャンが丁寧に指導致します

Blog

低音奏者に捧げるオマージュ(その1)

 
演奏においては「集中すること」が大事だ、とよく言われる。
果たして本当にそうだろうか?
今までいろんなステージを経験してきたが、私の場合結果が悪いときは大抵集中し過ぎなのだ。
要するに「演奏の一歩先を局部的に見過ぎている」ときは自分を信じることが出来ず、非常に
近視眼的になっていることが多い。
 
 
結果が良い時というのは意識が一点に集中せず、むしろ広範囲に散っている。
練習の時大概の人が本番よりリラックスしてやれるのは
「演奏の次の展開を本番の時ほどには疑っていないから、、、」
ではなかろうか。
 
 
だから私はあえて言いたい。
本番は集中してはいけない。
自分の日々の努力を信じて、むしろ集中を散らしたほうがいい。
先を考えず、遠くを見るように、広々とした心持で演奏したい、、、。
音楽で満たされている<その空間>を上空から見下ろすかのように冷静に、、、。
 
 
クラシックのアンサンブルにしろ、ロックのバンドにしろ低音奏者(ベーシスト)の視点という
のは常にそうである。いつも全体を見渡し、全体に基本エネルギーを供給し続ける。
ベーシストがリーダーのグループはまとまりが良い。
彼らにはメロディー楽器奏者やリズム楽器奏者にありがちなエゴが無く、常に全体のサウンドの
為に身を捧げるべく音を紡いでいるからだ。
もしもベーシストが演奏中自分のプレイする音だけに集中してしまったとしたら、、、。
バンドのサウンドはその場で崩壊するに違いない。
 
 
日本を代表する5人のジャズメンの対談を読んだことがあるが、その中で印象的だった話の
ひとつに、「天才少年ドラマーは生まれても、天才少年ベーシストなんて生まれない。」
ってのがあった(笑)。私にはすごく納得のいく話だったが、ニュアンスとしておわかりいただ
けるだろうか?ジャズにおけるベーシストというのは、他者のアドリブを支える為、音楽理論的
なこともキッチリと押さえ、常にクールに全体の見渡しがきいてないといけない。
そんな子供、いたらどないすんねん、、、。
 
 
ベースの重要性について、クラシック・サイドの話だとナディア・ブーランジェのものが真っ先
に私の記憶の中から立ち上ってくる。
 
~私の知り合いに、まだ子供ですがパリ音楽院で優秀な成績を収めているヴァイオリニストが
おります。ある日、私は彼にこう言いました。「メンデルスゾーンのヴァイオリン・コンチェル
トを歌って御覧なさい、、、、二楽章のゆっくりした曲のバスを歌って御覧なさい!」
「でも僕、分かりません」彼は十二歳かそこらでした。「じゃあ一緒に捜してみましょう。
一体どんな音だったかしら?」こうして一緒にバスを構成し直した結果、彼は自分のパートが
どのような音のうえに成り立っているかを聴けるようになったんです。もはや何もないところに
宙ぶらりんとは訳が違います。この様に、普段とは違う方法の弾き方によって音を聴き取る学習
は、誰にとっても非常に有益です!
オーケストラの団員たちにしても同じです。限られた時間内での指揮者の役割は、基本的には
団員たちに他のパートを認識させることに尽きるのです。~
「ナディア・ブーランジェとの対話/ブルノー・モンサンジャン著(音楽之友社)」より
 
 
(つづく)
 
 

カテゴリー:

“低音奏者に捧げるオマージュ(その1)” への4件のフィードバック

  1. S.Hongou より:

    合奏曲を弾いていると、いつも、視野狭窄、に襲われます。
    自分の演奏を俯瞰で見つめるには、とても時間と修練が必要な気がいたします。
    (こそこそ)

    • ryuji より:

      私が生徒さんに合奏を奨励する理由のひとつは、ソロよりもアンサンブルの方がより強く演奏を俯瞰で見ることが求められるからです。アンサンブルでその感触をつかんでソロにもそれをいかす、、、二つのあいだにギャップがないか、が大事なところです。

  2. d より:

    おはようございます。読んでいてオスカーピーターソントリオの名盤プリーズリクエストのレイブラウンのプレイを思い出しました。アンサンブルの手本だと思います。僕はバンドの演奏を聴くときは…ベースが一番聴こえてきて他の楽器の音がそれにぶら下がって前に出たり引いたりと…そんな感覚になります。悲しいかな自分のギターでは未だその感覚が持てずにいます。今日のレッスン宜しくお願いします!

    • ryuji より:

      今日は天気も良く絶好のギターレッスン日和(?)でしたね。どうもお疲れさまでした。トレモロの上達具合にビックリいたしました。
      「プリーズ・リクエスト」はレイ・ブラウンのお仕事の代表格ですね。すばらしい!ちなみにわたしはジョー・パスの「ポートレイツ・オブ・デューク・エリントン」でのレイ・ブラウンを愛聴しております。

ryuji へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です