【 フレッド・フリス 】
個人的な話からでごめん。まあいい、俺のブログだ・・・
1989年(平成元年)地元の公立高校を卒業した私は なんとか入学できた大学に毎日通うものの 心の中は今ひとつ煮え切らなかった。同級生男子の話題と言えば《クルマの話》か《おんなの子》の話ばかり。大学生活ってこんなつまらないもんか?自発的に入部したボクシング部は それまで経験したことのない新鮮な何かを与えてはくれたのだが それでもなお 満たされない”なにか”を心が欲していた。
高校時代に誘われて参加していた社会人バンドも引き続きやってはいたが これも何かが違った。子供の頃からやっているクラシックギターも 取り敢えずやめずにダラダラ続けている状態。自分にとっての”なにか”って一体なんだ? 一向にわからない悶々とした日々が続いた。
そんなある日 前々からずっと気になっていた<バンドメンバー募集>の広告に思い切って連絡してみた。そのバンドはアコギ&ヴォーカル、ベース、ドラムの3人で構成されており 4人目のメンバーとしてエレキギタリストを募集していたのだ。
約束の日 スタジオに見学に行った私は正直びびった。煙草に香水 長髪にサイケデリックなファッション・・・それまで全く接点がないようなタイプの御兄さん達を前にどうしようかと思ったが いざ演奏を始めた御兄さん達はそれはすごかった。私がそれまで出会ったどんな人よりも真剣にその瞬間を生きていた。
バンド加入をきっかけに私の生活は大きく変わった。大学を辞め家を出て 家賃一万七千円のぼろアパートに住み 昼は倉庫作業 夜はスタジオで御兄さん達と一緒になって 音と真剣に向き合い始めた。
聴く音楽も変わった。変わったというか無限に広がった。そんな中で P.ハミル、ダモ鈴木、L.リード、そして F.フリスなどが当時の私のヒーローだった。
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バンド解散の時点で もはやクラシックギターしか私には残されていなかった。だがこの頃には A.ヒナステラ、R.ディアンス、S.ラック、L.ブローウェルなどの音楽の中に 自分がバンドでやりたかった世界との親和性を見出していた。コンクールを受け運良く優勝できた私は 周りの後押しもあり パリへと修行に出た。
パリ市内の小さなクラブでフレッド・フリスの二日連続ライヴがあった。日本に居るときよりも多少大胆にふるまえた当時の私は 自分のバンドの音源を添えて彼に手紙を書いた。彼のギタープレイが自分に与えてくれた影響、自分が現在パリにいる経緯、音源についてアドヴァイスが欲しい旨ツラツラと書きしたため ライヴ初日 音響リハを終え会場から出てきたフリスをつかまえ手渡した。向こうからすれば気持ち悪い迷惑な客だったかもしれないが 優しく受け答えしてくれた。
二日目ライヴのあと 機材を片付けている彼と 少しだけ話せた。私の手紙を読んでくれてはいたが 音源に対するアドヴァイスは別段なかった。「お前クラシックギターやってるのか?」「はい、ところでクリス・カトラー(ヘンリー・カウのドラマー)は今なにをしているの?」「彼は今ロンドンにいるが すごく忙しいからお互いに会えないんだ」
写真を撮り お礼を言って別れたが あの時ふみこんで行動した自分を 三十年後の今でも褒めてやりたい (笑)。向こうには迷惑だったろうが・・・
ノイズ&アヴァンギャルドな二日間だったが 今も大切にとってある彼のサインには ライヴ終了後「Thank you for your wonderful performance!」と声をかけた私に対する返事としてこう記してある。
Thank you for your patience!(我慢してくれてありがとう!)
2025.1.10.
“Short Documentary of Fred Frith 1990”…
いまでも音源は片手マイクで拾い歩くものでしょうか…そうでない気がして。
自身は80年代生まれの世代ですが、見おぼえのある景色に<懐かしい>以上に、<ピュア>さを感じてキュッと…。は大袈裟かもしれませんが。
Yさま
今はいろんな性能の良い録音機器があるでしょう。ただ、性能の良さとか多機能の便利さといったことと《創造性》は別次元の話ですからね。
映像に映っている90年代には、録音機器としてDATというものがありました。プロミュージシャンで使ってる人が多かったです(皆さん「音質が良い」と言っていた)。LD、MD、DAT、video(VHS、β)など淘汰された感がありますね。カセットやLPは生き残っていますが・・・。
機器を詳しくは知りませんが、今ならば何でもコンピューターと指先ひとつで作れてしまえる気のしたのでした。
音さえ、拾うというより作ってしまえるといいますか…
足で…というより、指先で働くような…
失礼しました。
〈ギタリストの佇まい〉…僭越ながらいいタイトルですね。
本年も楽しみに拝見させていただきます。