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『Capricho Arabe』の周りで(その1)

 
Francisco Tárrega(1852~1909)の代表作として演奏家がとりあげる頻度の高いものに
『カプリチオ・アラベ(セレナータ)』という曲がある。邦題は”アラビア風奇想曲”。
タレガ”3高弟”のひとりD.フォルテア(1878~1953)や、パラグアイの名手A.バリオス・
マンゴレ(1885~1944)によって記録された歴史的録音をはじめ、この曲を愛奏してきた
名手は枚挙にいとまがない。
 
 
福岡県北九州市にオープンしたばかりのギターサロン”Ongaku Goya”(代表:池田慎司)。
そのすてきなスペースを使って、かねてから計画されていた私のアンサンブル講座も無事
スタートしたのだが、まず採り上げた曲は
「センチメンタル・メロディー(H.ヴィラ-ロボス)」
「カプリチオ・アラベ(F.タレガ)」
の2曲。どちらも4パートからなる松下編。
 
 
「カプリチオ・アラベ」のような曲を合奏でやることに関しては、それなりの”ねらい”がある 。
以前のブログで言及したことと重複するが、以下あらためて書き記す。
”曲として世に出版されたかたち”を、仮にその曲の作曲過程における”100”だとする。
”これから作曲を手掛ける時点”を、仮にその曲の作曲過程における”1”だとする。
作曲にとりかかる以前の”ー10”や”ー50”なども、もちろん厳密にいえば存在はするのだが、
そうした見方に基づいて”作曲という行為”を言い表した場合「1から100に向かう行為」と
いうことが出来る。
 
 
一方”演奏という行為”は、そのギャクの工程すなわち「100から入ってゆき1が見えた時に」
初めて完全な自由を得ることが可能なのではなかろうか、、、というのが私見である。
もちろんこれらのことはクラシック音楽の”作品”をあつかう場合に限った話だ(なぜこんな回り
くどい言い方をしなければいけないかというと、現代音楽の分野には、”作品”という概念では
くくれない、たとえば”行為の手順”だけが記されたようなものも存在するからである)。
 
 
いずれにせよ「カプリチオ・アラベ」の話である。
タレガにとって、この曲の”100”は、すなわち《ギター独奏曲》の形であったわけだが、
たとえば彼にとっての”10”や”30”あるいは”70”のあいだも、ず~っとこの曲は《ギター独奏
曲》だったのかというと決してそうではない。彼のからだの中にはこの曲が管弦楽の響きとして
”鳴っていた”はずであり、そこにスポットを当てたアンサンブル・アレンジでこの曲を体験する
ことが、今後メンバーひとりひとりが《独奏》でこの曲を弾くにしろ弾かないにしろ、なに
かしら有意義な時間になるかな、、、と考えた次第である。
 
 
タレガのひとつ年上の作曲家ルペルト・チャピ(1951~1909)はスペイン風オペレッタ
《サルスエラ》の黄金期を代表する優れた作曲家であった。
このひとの代表作のひとつである「ファンタジア・モリスカ(1873/79)」は四つの楽章から
成っており管弦楽で演奏されるが、第三楽章”Serenata(セレナータ)”をタレガは殊のほか
お気に入りだったようで、《ギターソロ》のみならず《ギターデュオ》にもアレンジしている
ほどである。生涯数多くの編曲を残したタレガであるが、そこまで肩入れした曲は他に見当たら
ない。生前ふたりの交友があったかどうかは不勉強で存じ上げないが、没年まで揃えてしまうと
いうのは、(意図はしてないにしろ)もはやなんというか、、、(笑)。
 
 
そこまで肩入れした成果が、ギター史に残る極上の果実「カプリチオ・アラベ(セレナータ)」
としてタレガの中で結実したのは、チャピが「ファンタジア・モリスカ」を発表してから
十年以上経過した1890年のことだった。
 
(つづく)
 

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“『Capricho Arabe』の周りで(その1)” への4件のフィードバック

  1. S.Hongou より:

    今回のブログ、アンサンブル科の皆様に読んでいただきたいと思いました。
    正直、最初は、ぐえー、(オノマトペが美しくなくすみません)でしたが、いま、できない箇所もあるけれど、実は秘かに楽しい。アポヤンドを使いすぎ、NGの御指導もありますが、可能性が沢山。いつか、ソロ?
    まずは、クロマチックスケールでした。ショボン。

    • ryuji より:

      S.Hongouさま
      私個人にとってはアランブラのほうがよっぽど難しんですがねー(あんまり先入観もよくないので本編では書きませんでしたが、これ本音です)。
      今回アンサンブルでこの曲を体験された皆様は、これでソロ版における”しあわせな演奏”へのパスポートを入手できたと思っていただいてよいと思います。
      割と多くのひとが、「練習して、そののち、そこで起こっている音楽上の出来事を理解」という手順(プロセス)を踏みますが、「そこで起こっている音楽上の出来事を理解、そののち、練習」のほうが、より自分の技術を確信持って繰り出すことが出来ます。

  2. S.Hongou より:

    あ、これは、二回目に書く内容でした。失礼いたしました!

    • ryuji より:

      いえいえ、のんプロブレム、マドマゼール
      「左右確認、そののち発進(発信)」

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