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ぼくの場合です(その2)

 
【②について】
前回、私が『ちょうちょ』のメロディーを弾く際、充実して演奏するために少なくとも三つの点
について検討することをお伝えした。②番目の”ハーモニー感”だが、「え?単音なのに?」
と思われるかもしれない。そう、単音のメロディーも潜在的にハーモニーを背負っているもので
ある(西洋音楽の場合に限る)。
もちろん一本の旋律に対するコード付けの可能性はたくさんあるのだが、考え得る限り
もっともシンプルなコード付けを以下に示す。
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「ちょうちょ」のメロディーに最低限付随するコードはC(トニック)とG7(ドミナント)の
ふたつだが、基本的に「トニックは安定感、ドミナントは不安定感をつかさどる」と考えた時、
ドミナント・コードの小節(例えば2小節目)に踏み込む瞬間、第一拍目の音に緊張ないしは
不安定感をしっかりと乗せて弾く。そしてドミナント・コードが続いている範囲では、その
緊張感を維持したほうがいわゆる”和声が感じられる単音演奏”になる。
この感覚をカラダに沁み込ませるためには「すこしオーバーかな」と自分で思えるくらいやって
みることをお薦めする。あとでいくらでも”薄味”には出来るから心配ご無用!
 
 
【③について】
<歌詞と発音の兼ね合い>についてだが、メロディーがオリジナル器楽曲ではなく民謡や声楽曲
の場合には、歌詞を検討することで演奏がより一層充実してくる。
たとえばスペイン語が全然堪能でない私であるが、メキシコのM.M.ポンセが作曲した歌曲
『エストレリータ』のギターソロ編曲版を弾くにあたり、原語歌詞はそらで歌えるように
している。
そうすると
「ここのふたつの音には”amor(愛)”という言葉がのる」
「このふたつの音は”sufrir(苦しみ)”と言っている」
などが見えてくる。さらに単語の意味だけでなく発声のひびきを知ることで、自分の楽器で
発音するときのイメージも具体的になる。
声にして唄うと、呼吸の関係から曲の速度(テンポ)も定まりやすい。
 
 
あとこれは番外編であるが、曲の核心にさらに近づきたい方は、その曲の”原曲”あるいは
”原典版”をリサーチしてみるとおもしろい。
今回例に出した「ちょうちょ」。わたしは長いことスペイン民謡だと信じていたが、そのルーツ
は、なんとドイツの歌らしいのだ。
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3番まであるらしいのだが、歌詞の内容は《幼いハンスちゃんが旅に出て母が見送り、7年の
放浪の末、日焼けした大人のハンスへと変わり、あまりの変わり様に誰にも分かってもらえ
ないが、再会した母親にはすぐにハンスだとわかった》というものだそうである。
この譜面を見ておもしろいなと思ったひとつは、拍子が2/2であること。4/4よりも確かに
2拍子でとった方がこのメロディーのキャラクターそのものには合っている気がする。
もうひとつはやはり、前回最後にお話した二段目と四段目の終わりが主音のドで結んである
こと。この感じがやはりドイツだな~(笑)。
このメロディーが他のヨーロッパ諸国や米国に伝わり、それぞれ現地化していったのだろう。
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一本のメロディーと向き合うだけでも、このように様々なことを考える事が出来る。
退屈などしていられない。
ただこのような向き合い方が理想だなどと言うつもりもないし、”どんな音楽でもむずかしい”
などと言いたいわけでもない。なにかと向き合う時、妥協はもちろん必要である。
 
 
「妥協点を現在より高く持ちたい」
あるいは
「シンプルさに退屈しないで充実して向き合いたい」
そんなひとに向けて、”ぼくの場合”を今回書いてみた。
 
 
2020.3.3.
 

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“ぼくの場合です(その2)” への2件のフィードバック

  1. S.Hongou より:

    「唄うように弾く」の感覚が、とても分かり易く、整理できました。
    歌詞、大事なんですね。
    同じ音が、違うニュアンスになりますね。
    和声を意識する、わあ、難しいですね。
    和声を理解できるようになりたいと思いました。
    (思いました、で終わらせてはだめー)

    • ryuji より:

      S.Hongouさま
      妥協点を決めるのはそれぞれですし、他にもいろいろとあることでしょうが、とりあえずこれで”退屈”はしないと思います。

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