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アランブラ・メモ(その2)

 
作者がアンダルシアへ演奏旅行したときグラナダに滞在し、ある夕べアルハンブラを訪れた。ターレガはこの日の見聞が引き起こした限りない印象を呼びさましながら、名高いトレモロのテーマをスケッチしたのはその夜だった。この曲はアルハンブラに寄せて(祈り)と名付けられ、さらに後に「アルハンブラの思い出」と決定的な題名をそえて出版された。作者がパリで世話になったギタリスト Alfred Cottin に贈られている。
~『ターレガギター曲集(中野二郎監修)オリジナル篇 II 』(現代ギター社)解説より~
 
 
《タイトルについて》
 
私が非常に親しくさせていただいており、音楽仲間として心から信頼しているスペイン留学経験
もある某氏によると、昔から日本語表記でよく見かける ”アルハンブラ” というのは、現地には
無い発音の仕方だそうで、正しくは ”アランブラ” とのことである。
 
 
したがって日本語タイトルを「アランブラの思い出」とすれば、おそらく原題に最も忠実
なのだろう。
だが筆者は思うのである、、、。
この曲が昔の日本において、F.タレガの代表作のみならず、クラシックギターの代表作とまで
なった要因として、タイトルに ”宮殿” の二文字が付いていたことは非常に大きかったのでは
なかろうか。
現地のスペイン人にとっては、”アランブラ” という言葉に宮殿のニュアンスも含まれている
ので、あえて ”宮殿” を付けなくてもOK牧場なのであろうが、遠い異国の日本人にとっては、
宮殿という言葉が呼び起こすロマンが、絶対この曲の普及にひと役買ったはずなのである。
よって日本におけるタイトルは「アランブラの思い出」もしくは「アランブラ宮殿の思い出」の
いずれかで良いのではなかろうか、、、などと勝手に思っている。
 
 
いずれにしてもタレガの数あるオリジナル作品の中では、ステキなタイトルだと思う。
タレガはどちらかというと大曲より小曲の方が得意であり、舞曲名、形式名をそのままタイトル
にする(例:「マズルカ」「パバーナ」「ワルツ」「メヌエット」「プレリュード」等)他は、
曲タイトルとしては少女の名前ばっかりである(例:「ペピータ」「マリエッタ」「アデ
リータ」「ロシータ」「二人の幼い姉妹」等)。
数年前、ギター史研究家として著名な T 氏から、現代ギター誌上で
「ロリコンである」
と断言されてしまったタレガであるが、残されているデータを見ればそれも致し方なかろう
(苦笑)。
そんな中「アランブラの思い出」は、ロリコンタレガ(?)が付けた作品タイトルにしては、
簡潔にして味わい深いポエティックなタイトルだと私は思うのである。
 
 
もうひとつタレガの作品群の中でこの曲を特徴付けている要素は、曲の規模の大きさ(長さ)
である。
A-B-B-Coda という構成で演奏を終わる人が多いが、作曲者の希望通りのリピートをやると、
A-A-B-B-A-B-Coda という構成で、実行するしないに関わらず、(プロフェッショナルはよく
意識しているが)この曲はタレガ・レパートリーきっての大曲なのである。
「面倒だからリピート省いちゃえ」という人が多いが、作者にとって ”自身のアランブラ体験”
を追想するには、やはりこの長さが必要だったのである。
もしくは宮殿内のアラベスク紋様の回廊を徘徊し、遠くイスラム支配のころのスペインに想いを
馳せ、遠くなる宮殿を振り返りつつあとにする心情を音に描くとすれば、これが必要な長さだと
作者が判断したわけである。
 
 
と、そこまで理解した上で「やっぱり省きたい」という方は省けばいいと私は思う。
ただそのようにしたとき、ギタリスト F.タレガがこの曲の演奏によって味わったであろう
「演奏後の疲労感の中での心地よい余韻」には決して辿り着くことはない。
「有名曲だから、、、」とリクエストされ、サービスとしてなんとなく弾いた ”お手軽な追想 ”
からは、” 奏者の力量云々 ” を通り越した先にある ” はるか遠い感動 ” まではとても辿り着ける
ものではない。
 
(つづく)
 

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“アランブラ・メモ(その2)” への4件のフィードバック

  1. S.Hongo より:

    アランブラの思い出は、これだけ弾けるよと、団塊世代の方に言われたことがあります。
    この国の人の、何かに触れる曲でしょうか。
    (いつか未来に弾くことがあれば、先生のおっしゃる、省かない演奏でやってみたい、、遠い目)
    レコンキスタの終焉は、アランブラ宮殿の陥落だったとききますが、美しい建物を破壊しなかった、当時にも思いが飛んでいきますです。
    次回も楽しみにしております!

    • ryuji より:

      Hongoさま
      いつもコメントいただき有難うございます。
      (作曲家個人個人のスタイルやエクリチュールがそれぞれに違う)現代と比べると、当時の作曲というのは、「個人的感興および個人的体験を、ロマン的世界の共通言語の中で如何に作品として昇華させられるか、、、」というものだったと思います。
      タレガの為に言っておきますと、彼の場合の”ロリコン”とは(現代のそれとは違い)本当に純粋な意味での”少女讃美”であり”崇拝”であった、ということです。その彼の持つピュアな世界が、当時のロマン派的世界と性質的に合致したことで、音楽家として素敵な世界を描く事が出来たのだと思います。
      シューマンの内向的「ウツ気質」が、作品として昇華出来うる時代でもあったわけで、、、。

  2. shun より:

    私は“アルペジオ”が苦手で、“トレモロ”は挑戦と断念を繰り返しています。
    「ギターをやってる」と言うと、「『禁じられた遊び』弾ける?」と聞かれ、「あれはちょっと…」と言うと「じゃあ、『アルハンブラ』は?」「う……ん」。そして私は、“○年もギターやっていて「なにも」弾けない人”となります。
    この連載には、そんな私が再度トライするヒントも出てくるのでしょうか? 楽しみにしています。

    • ryuji より:

      shunさま
      コメントいただき有難うございます。
      そうですよね。結局プロであろうとなかろうと「有名曲問題(?)」には直面しますよね。ギターを弾いてる限りは、、、。
      今後トレモロ(およびアランブラ)に関して私が個人的に悩んできた内容を、テクニック面にも触れながら、述べてゆくつもりです。
      ただそれが万人に当てはまるはずはなく、あくまで私個人の「問題点と解決のヒント」の話となります。その中にひとつでも皆さんの解決の突破口になる話が含まれていれば、この上ない喜びです。

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