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アランブラ・メモ(その1)

 
今回のテーマについては、長期連載にしていきたい。
 
折に触れ、ぽつぽつと書き綴っていくので、ご質問のある方、悩みのある方、共感される方、
反論のある方、ご自分の解決法をお持ちの方はそれぞれにコメントいただければ嬉しい限りで
ある。
 
 
《3大有名曲》
「ギターや音楽に普段親しまない人でも知っている”クラシックギターのオリジナル曲”を
挙げよ」と言われたら、あなたは何と答えるだろうか?
”オリジナル曲”と言うからには編曲ものは含まない。クラシックギターのために作られた曲と
いう意味だが、私の説によればそれは3曲しかない。
 
 
まず一曲目は「愛のロマンス(原題:エステューディオ/A.ルビラ作曲)」
これは1952年公開の映画、『禁じられた遊び(ルネ・クレマン監督)』のテーマ曲として
使われ、世界的に有名になった。当時オーケストラで音楽を付けることが主流だった映画界に
おいて、一本のギターのみで音楽を付けることは斬新な試みであった。それに関する意見の
食い違いで音楽監督と袂を分かったクレマン氏は、映画で演奏を担当してくれるギタリスト探し
から始めねばならなかった。
クラシックギター界の巨匠、A.セゴヴィアに頼みたかったが、当時すでに名声を確立していた
セゴヴィア氏のギャラは高額で、予算的にとても払えるものではなかった。その後もギタリスト
探しを続けたクレマン氏が白羽の矢を立てたのは、当時まだ無名に近かった青年ギタリスト、
ナルシソ・イエペスだった、、、。
 
 
イエペスのリサイタルは、いわゆる一般的な”ギター・リサイタル”とは違う客層でいつも満た
されていたらしい。「イエペスのリサイタル」の聴衆は、日頃ギターや音楽に親しんでない人も
多く、彼らはイエペスがアンコールで演奏するはずの「愛のロマンス」のみを聴きに来ていた。
ある一曲で有名になり過ぎた場合、それが本人にとってどういったものになるかは、そのひと
それぞれであろう。イエペス氏本人にとってその結果が幸せであったことを、私は祈らずには
いられない。ただし最近はこの曲を知らない若い世代も徐々に増えてきた。
 
 
2曲目は正確に言うとギターソロ曲ではなく、ギターとオーケストラのコンチェルト作品で
あるが、「アランフェス協奏曲第二楽章(J.ロドリゴ作曲)」の冒頭部分である。
ちなみにアランフェスと言っても、第一楽章や第二楽章の途中、そして第三楽章はさほど知れ
渡ってるとは言えない。
ジャズ界ではM.デイヴィスやJ.ホールなどの大御所がレコーディングで採りあげたり、F.
プゥルセル楽団などのポップス・オーケストラが「我が心のアランフェス」「恋のアラン
フェス」などのタイトルで第二楽章を採りあげたため、一般的認知度が高まった。
(冒頭のメロディーを弾くと「あっ、必殺仕事人だ」と声をあげる人も多い)
 
かつて、ギター専門誌「現代ギター」に掲載されたアリリオ・ディアス(1923~
2016.7.6.)氏のインタビュー記事には個人的に大変衝撃を受け、且つ納得させられた。
氏曰く「”アランフェス協奏曲”の楽想(および作曲)はJ.ロドリゴではなく、献呈されたギタ
リスト、レヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサのものである」ということである。
「なぜなら、、、」とその後、非常に説得力のある見解がインタビューで延々と展開される
のだが、要約すると”レヒーノの楽想”を、ロドリゴがオーケストレーションしたに過ぎない、と
いうことなのだ。
 
 
話が脱線し過ぎてしまった、、、。
そして三曲目「アランブラの思い出(F.タレガ作曲)」である。
「えっ?クラシックギターの有名オリジナル曲ってたったの三曲ですか?」と驚かれることが
多い。
そう、、、3曲である。
しかし寂しがることも卑下することもない。
冷静に考えて欲しい。
 
 
「トロンボーンの有名オリジナル曲」を三曲挙げられるだろうか?
「ヴィオラの為に書かれた有名曲」を一曲挙げられるだろうか?
”有名オリジナル曲を3曲も持っている”というのは、楽器としては多い方なのである。
(別の言い方をすれば、ピアノとヴァイオリンが多すぎるのだ)
つまり何が言いたいかというと、その楽器のための有名オリジナル曲が多い、少ないというのは
音楽を、演奏を、楽しむうえで大して重要な問題ではないのである。
(映画音楽やビートルズの楽曲など)ギターのために作られた曲ではないにもかかわらず、
武満徹編曲の「12の歌」などはそんじょそこらのギター・オリジナル曲より豊かな世界が
広がっているではないか。しかもギタリストではないひとの編曲なのだよ。
 
 
その曲が有名になるかならないか、というのは”曲そのものの力”ももちろんあるかもしれない
(そこはあえて否定しない)が、「ふとしたきっかけ」というものが、その原因の大半である
気が私はしている。
しかしプロ演奏家は、望むと望まないにかかわらず、その活動や人生においてそれら「有名曲」
となんらかの折り合いをつける必要に迫られるものだ。
 
 
そういったギター3大有名曲のひとつ、「アランブラの思い出」に関する話を、これから
少しずつ少しずつしていきたいと思っている。
 
(つづく)
 
 
 

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“アランブラ・メモ(その1)” への4件のフィードバック

  1. t.yoshimoto より:

    先日は有難うございました。 先生のギターと合唱団がハーモニーを奏でる、これがなかなか難しい! つい独りよがりで、自己満足で歌ってしまう

    • ryuji より:

      yoshimotoさま
      こちらこそありがとうございました。
      フロイデ・コールさんとのリハーサルのひととき、いつも楽しませて頂いてます。
      今回ご一緒させていただくのは2曲ですが、B.チルコットさんのアレンジ、クリエイティヴかつ格調が高いです。
      信長さんアレンジのミーシャ「Everything」ギター語に翻訳したもののちゃんと成立していますでしょうか?
      合唱に限らず、クラシックの他楽器のかたも所謂『クラシックギターの音』そのものに馴染んでないことが多く、歌いながら、あるいは演奏しながら”ギターの音に耳を傾ける”事が出来るまではある程度は時間を要すると思います。
      ひと昔前はそのことを「ギターに音量がない為だ」と考え、コンプレックスを抱えてしまうギタリストが多かったのですが、私のアンサンブル経験から言わせて頂ければ、トランペットだろうとサックス、ピアノだろうと、いいプレイヤーはバランスをとってくださるのでちゃんと成立します。
      ギターとアンサンブルするのに制約やストレスを感じたりされるのは、こちらも望みません。
      「ギターと何が出来るか」を楽しんで頂ければ、必ずいいアンサンブルが生まれるはずです。
      以上、自分のダメさ加減を棚に上げた見解でした(笑)。

  2. S.Hongo より:

    イエペスの、本当に最後の公演を聞きました。(福岡サンパレスでした)
    「禁じられた遊び」を、氏はお弾きになりませんでした。
    アンコールは、グラナドスの曲だったような。
    有名曲は、三曲程度に、
    えー!
    となりますが、次の回を楽しみにいたします。
    (そういえば、先生のアランブラは聞かせていただく機会なく、いまに至っております)

    • ryuji より:

      Hongoさま
      そうですか、巨匠御弾きになりませんでしたか。
      最後のさいごで抵抗したのですかね?
      曲がステキになるかどうかは「弾く人がその曲にどう接するか」の問題で、「曲そのものの歴史的価値」みたいなことが演奏行為と分離、独立して語られること自体がじつは私にはピンとこないのですよ。
      『名曲のつまらない演奏』と『駄作の名演』
      どっちをとるかと言われれば、私は迷わず後者ですね(笑)。

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