唐人町ギター教室では、楽譜が読めない初心者の方からプロを目指している上級者まで、現役プロミュージシャンが丁寧に指導致します

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ギタリストの夢

 
先月からヨーロッパ留学組の帰国ラッシュが続いている。
 
 
彼ら彼女らは一時帰国に伴い、各地で中間報告も兼ねた意味でのコンサートやリサイタルを
開催しており、留学前から彼らを知って応援してきた大人達で連日のコンサートは賑わって
いる。
音楽の海外留学は十代後半から二十代半ばぐらいの間に行く事が多いが、その年齢の頃の
私に比べ、今の若者たちはなんとしっかりした考えをもって留学に臨んでいる事だろう。
留学せず、日本で研鑽を積んでいる若者達も然りである。少なくともわたしの周りにいる若者達
は皆頑張り屋さんであり、頼もしい。
 
 
以前も書いたと思うが、わたしは“ギタリストになりたい”などと思ったことはない。
いくつかのことを試み、結果ギタリストという選択しか手元に残らなかっただけの話である。
したがって子供の頃「将来何になりたいですか?」の問いかけに対し、「ギタリスト」と答えた
事はただの一度もない。
もちろん音楽もギターも好きではあるが、「将来の夢」としてそれらを追いかけた記憶は皆無で
ある、、、。
 
 
そんな私がこの道に片足突っ込んだ頃、他人(主に先生クラスの方)から良く聞かれ、自問も
頻繁にしていた問いにこういうものがあった。
 
「どんなギタリストになりたいですか?」
 
これはつまりこういうことだ。
世の中に既にたくさんのギタリストがいる。
その大勢の中のひとりとして活動していくに当たって、自分をどこに位置づけたいのか?
活動を通してやりたいこと、興味あることは何なのか?
 
 
この問いはずい分と私を悩ませた。
フランスで過ごした一年間の留学期間もほとんどがこの問いとの格闘だった。
なぜなら私にとっての“理想の活動”というのが、どう考えてもホールのステージに一人で出て
行って、クラシック・ギターの難曲レパートリーを精魂尽きるまで弾く、、、というものでは
なかったからである。
かといって、じゃあクラシック・ギタリストに他にどんな道があるのだ?
 
 
わたしはクラシック・ギターの為に書かれた曲は好きだ。
だが好みは非常に偏っていて、近・現代レパートリー(二十世紀以降の作品)が特に大好き
だった。
そしてそれ以外はロックやポップス、民族音楽を好んで聴いていた。
留学前はバンド活動もやっていたが、ロックのお決まりのコードの響きや進行を避け、アバン
ギャルドな世界に憧れながらの曲作りをメンバーと共に模索していた。
 
それらの雑然とした世界をどのように結晶化させればいいんだろう?
 
 
次第に私にとって越えなければいけないものが何なのか分かってきた。
よく言われるところの
“ジャンルの壁”
である。
漠然とした大きな目標を胸に私は帰国した。
だがジャンルの壁を越えて自由に行き来する為には、それぞれのジャンルの中で何が起こって
いるか、を見極めねばならない。結果そのためにさらに二十年近い歳月を費やす事になる。
 
 
 
来たる九月十五日(月・祝)唐人町ギター教室主催(つまり自主企画)でひとつのコンサートを
開催する。
間<Awai>~クラシック・ギターの挑戦~
と題し、前半第一部はクラシック・ギタリストにとっての宝、セゴヴィア・レパートリーを従来
行なわれてきたソロ演奏、そして今回初アレンジによるトリオ演奏でお届けする。
ソロ演奏の意義を再確認すると共に、アンサンブル演奏によってのみ感じられる、作品としての
価値にスポットを当ててみたい。
後半第二部はポップスや映画音楽を中心にしたプログラム。
ジャズを含めたポピュラー・ミュージシャンのほとんどが “C メロ譜”を使って演奏する。
C メロ譜とは曲のテーマ(メロディー)が音符で書かれ、その上にコードネームがふってある
だけの簡素な楽譜のことである。
まず最初にメンバーみんなでテーマを演奏し、ひととおり終わったらテーマと同じコード進行で
メンバーがそれぞれアドリブ・プレイをやる。そして最後にまたテーマを演奏して終わる、と
いう演奏方法をとる時に使われる楽譜である。
異業種ジャンルのミュージシャンが共演する時、使い勝手が良いため C メロ譜を使用する事が
ほとんどであるが、難点もある。
あいだに必ずアドリブをはさんで各メンバーで回すため、一曲がだらだらと長くなりやすい事。
現場対応能力が問われる(別な意味ではクラシックもそうなのだが、、、)演奏スタイルだが、
緻密で計画性の必要なアンサンブル・サウンドを表現するにはあまり向かない。
一方でコードでなく音符を操るのがクラシック・ミュージシャンであるが、今回のコンサート
では徹底して音符によるポピュラー音楽演奏を追求する。すなわち我々クラシック・ミュージ
シャンでないと出来ないアプローチを求めて、のステージである。
 
 
出演は私が思うに、現時点でこの企画に合うベスト・メンバーである。
一番若いのがここ一年作曲、編曲の腕前をメキメキと上げてきた山田賢。巨匠セゴヴィアの呪縛
を受けていない世代が今回の企画に入ることの意味は大きい。
そして説明不要のギタリスト、池田慎司。わたしがステージを多く共にしてきた最も信頼し尊敬
するミュージシャンのひとりである。
 
 
 
「どんなギタリストになりたいですか?」
うーん、、、今後どんな活動を展開していったらいいんだろう、、、。
本気で悩んでいた二十年前に思いを馳せながら、この企画が今の自分が一番やりたいことだと
自信と確信をもって言えるしあわせを、いま噛みしめている。
 
 
2014.9.3.
 

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