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「あこがれ」について

 
 
“ポーランドに行きたい”
 
 
留学を終えて帰国した二十代後半のころである。
その思いは日に日に強くなり、半年ほど時間をかけてようやく鎮静していった。
 
 
何故にポーランドだったか?
“マズルカ”をナマで見てみたかった。ただそれだけである。
マズルカとはポーランドの民族舞踊のひとつで、男女がペアになって踊る「求愛の踊り」で
ある。十九世紀初頭から半ばにかけて活躍したポーランド人ピアニスト、F.ショパンは生涯
五十曲以上のマズルカをピアノの為に作曲した。
そしてそのショパンに憧れた「近代ギター音楽の父」F.ターレガは、スペイン人ながらもいく
つかのマズルカの名曲を作り、ギター音楽の世界を豊かにした。
 
 
ギターの世界では古くはF.ソルがマズルカを作曲しているし、ショパンと同時代のハンガリーの
ギタリストJ.K.メルツにも作品リストの中にマズルカがある。
近代ではメキシコの作曲家M.M.ポンセ、そしてポーランドの作曲家A.タンスマンがギターの
為に素晴らしいマズルカを作曲している。
南米はパラグアイ出身の名ギタリスト、A.バリオスも然り。ギターを始めた生徒さんが二~三年
目で手がけるJ.S.サグレラスの「マリア・ルイサ」もマズルカである。
 
 
これだけ例を挙げれば、もはやおわかりだろう。
クラシックギタリストにとって“マズルカ”という舞曲が如何に身近なものであるか、、。
ところが、、、
まるでわからないのである、これが。
 
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*マズル(mazur)
マゾフシェ地方に由来する跳ねたり、輪になって踊るポーランドの民族舞踏とそれに伴う歌。
急速な3拍子であり(3/4ないし3/8)、しばしば付点リズムをもつ。弱拍部(第2と第3
拍)に交替にアクセントが置かれるが、フレーズの終わりには第1拍が強調される。
 
~新音楽辞典(音楽之友社)より抜粋
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この文章の情報のみで、ポーランド人の男女がいきいきと踊っている姿を思い描けるひとは
よほどの読解力をお持ちであるか、あたまから孟宗竹の生えた人ぐらいであるだろう。
いずれにせよ私にはちんぷんかんぷんである。
百聞は一見にしかず、、、。これは現地で見るしかない。
私はポーランド行きを本気で望み、憧れた。
しかしそれが具体的に形になることはなく、月日だけが流れた、、、。
 
 
 
数年前、文明から取り残されかけていた当ギター教室も、ついにパソコンを導入した。
そしてそのことによって、あれだけ観る事を切望していた“マズルカ”を、You Tube 動画で
あっさりと観ることが出来た。
そのことに対する衝撃(感激ではない)と空虚さは今でも忘れがたい。
 
 
なかなか手に入れることの出来ないその時間のうちに、ひとは“あこがれ”というものを自らの
中で醸造あるいは熟成させる。
その時間が必要でなくなってしまえば、ひとにとってもはや“あこがれ”という言葉は死語に
なっていくに違いない。
 
 
そしてファースト・コンタクト(出会い方)というものが、如何にひとに大きな影響をあたえる
ものか、、、。
こんな時代だからこそ、ものごととの“出会い方”をしっかりと意識する必要があるように
思える。
安易な出会い方を選ぶのはなるべく避けよう、と強く思った出来事だった。
 
 
そして“あこがれ”を胸に抱く時間が、わたしにとって如何にかけがえのない大切な時間なのか、
ということも、、、。
 
 
2014.8.25.
 

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