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ホセ・ルイス・ゴンサレスの思い出

 

来たる11月4日(土)福岡県北九州市において、あるコンサートが開催予定となっている。スペインの巨匠、故ホセ・ルイス・ゴンサレス(1932~1998)の晩年に師事した三人の日本人ギタリストたちによるメモリアル・コンサートである。タイトルは『マエストロから引き継いだもの』。

出演は岩崎慎一(大阪)、富川勝智(東京)、池田慎司(福岡)。当日は「ホセ・ルイスから引き継いだもの」をテーマにそれぞれが選曲したソロ演奏が披露される予定。私も彼らの演奏のいちファンとして、今からとても楽しみにしている。

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私が若い頃、J.L.ゴンサレスの講習会が沖縄県名護市で開催され、福岡から参加した。年代および数字に弱い私は、過去を数字がらみで振り返ることはほとんど無いのだが、今回あらためて調べてみると、1992年11月であった。しかしこの数字を見てさえも、当時自分が何歳だったか計算するのが億劫な文系のわたし、、、(たぶん20か21か、くらい)。しっかりと記憶しているのは、この時生まれて初めて乗った飛行機が13日の金曜日でおまけに仏滅、という非常にスリリングなものだったということ。自分の師匠(故坂本一比古先生)以外のかたに教わるのは、この時が全く初めての経験だったこと。そして福岡から離れたことのない私が生まれて初めて目の当たりにする ” なまスペイン人(しかも巨匠) ”。そして自分にとって初めて、大勢の見知らぬギター関係者 の只中に入ってゆく経験だったこと。

マエストロの印象で記憶しているのは、スペイン人特有の体臭というか強烈な香水の香りだった。どうでもいいことかもしれないが、世界を知らない当時の私にとって、あれはひとつの大きなカルチャーショックとして刻み込まれている。その数年後に留学した先のフランスでも、同じ体験を味わった。パリの街はどこにいっても香水の香りが漂っていた。

 

当然のことながら、そのとき日本全国から応募してきた参加者のほとんどは、すでにマエストロの演奏のファンであり、受講する曲もマエストロの得意とするスペイン・レパートリーが大半を占めていた(主にグラナドスやレヒーノの作品)。そして今回振り返ってみて今更ハタと気づいたのは、その時の参加者のなかで私が最も若かった、ということである。

 

岩崎慎一氏と J.Lゴンサレス講習会にて

 

目の前にいるマエストロ、、、。そして自分の目の前にあったマエストロのギターの音は、想像していたよりもずっと力強く、かつ予想をはるかに超えて繊細だった。

だが世界を知らない当時の私は、それが果たして海外のギタリストの標準的な演奏クオリティなのか、あるいはこのひと特有の世界なのか、ということについてはサッパリ見当がつかなかった。まあ、むりもない。なんせ知らないのだから、、、。

数日間に渡るあの講習会を出発点として、その後さまざまな世界に触れていった。海外の巨匠を含む大勢のギタリストの演奏と音楽にナマで触れてきた。あれから30年経った現在、振り返ってみてハッキリと確信を持って言える。ホセ・ルイス・ゴンサレスの演奏と音楽は、まさに唯一無二の世界だった、と。

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ギターソロというものは、ひとの孤独に最も肉迫できる可能性をもった演奏形態だと思っている。自分の内面と深いところで向き合う時間、、、。そしてその奥にさらに深く深く入ってゆくと、” 自分 ” というものをいつしか突き抜けて「他のひとたちと共有できる 孤独 」という領域に入ってゆける。

スペインの伝統と文化を受け継ぎつつ、パブリックとプライヴェートの領域を、非常に大きな振幅で行き来できた稀有のマエストロが、私にとってのホセ・ルイス・ゴンサレスという存在である。そのマエストロに直接師事された『三人によるソロ・コンサート』は、そういった意味でホセ・ルイスに対するオマージュとして非常に核心を突いた企画とも思える。

 

【大阪公演】

 

【北九州公演】

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“ホセ・ルイス・ゴンサレスの思い出” への2件のフィードバック

  1. 村田陽子 より:

    2ヶ月振りに松下先生のブログを拝見。理由は、あの糸島櫻井での2022.10.10の十五夜を思い返し、今宵2023.10.29の十五夜を愛でながら、堀本魔女初め関係者と十五夜繋がりを再び味うことが出来たからです。あの月夜のガーデンコンサートは、生の音楽と自然の融合、そこに今夜再び、人と音楽と自然の親和性を目の当たりにしたのです。何と美しい物語でしょう❗松下先生に一言このリアルをお伝えしなくてはと思いました。
    2022.10.10と同じく雲の陰から静かに煌々と輝く満月と、その仲間。これぞ、ろまんてぃしずむ。

    • 松下隆二 より:

      村田陽子さま
       
      どうもご無沙汰しております。
      昨年お世話になったあの野外コンサートは、音楽を聴くために常に固定されてある《コンサートホール》という空間では味わうことのない世界を久しぶりに感じさせていただきました。
      当日ご準備されてあった皆様のお姿が今も目に焼き付いています。ミュージシャンではなく”みんなで作り上げたあの空間”こそがあの晩の主であり、印象としてずっと残っていくものなのでしょうね。

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