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親愛なる先生(齊藤賀雄編その1)

 
あれは2002年の年が明けて間もない頃であった。
 
当時よく演奏をご一緒させて頂いてた九州交響楽団のヴァイオリニスト荒田和豊氏から
“フルートの素晴らしい先生が年に1回されてるアンサンブル講座に、今年は松下さんも
参加しはりまセン?”とのお誘いを受けた。
“齊藤先生て僕が尊敬する先生やけど、レッスン受けたら松下さんにも絶対ためになると
思うワ。フルートやヴァイオリンのおねえちゃんもいっぱい来るしナ。”
 
 
最後の一言に強く引かれた私は、とにかくその3泊4日の講座に参加する事にした。
講座の名前は「温泉講座」、場所は熊本県平山温泉“栄楽旅館”
(なんか本当にやる気あんのかいな、、、?)
 
 
旅館にはピアノは無く、参加楽器は例年フルート、ヴァイオリン、そしてハーモニー楽器
はギターのみ、という編成だそうな。(う~ん、何かイメージがつかめん、、、)
 
しかしこの講座なんと14年続いていてその年が15年目との事。さらに私が尊敬し信頼
する荒田さんのお勧めだから間違いはあるまい。北九州のギターの名手、池田慎司君も参
加すると言ってるし、、、。
 
 
ところが講座の前日、荒田氏から電話が入った。
“僕の生徒でヴィオラのひとなんやけど、明日シューベルトの「アルぺジョーネ・ソナタ」
の第1楽章で受講したい言うてはるけど、松下さん伴奏できへんやろか。”
 
 
この要求の凄まじさは、プロのギタリストならご想像がつくと思う。
私はその瞬間から当日の朝までシューベルトと格闘する事となった。
曲は知っているもののそれまで弾いた事は無く、12分を超えるこのような難曲を一日で
さらった経験など無い。(まあしかし後で振り返ってみると「限られた時間で如何にカタ
チにするか」という究極の職人的勉強になった。荒田さんありがとう、、、。)
 
 
 
 
人里はなれた山の中、平山温泉“栄楽旅館”はあった(現在はない)。
事務局の古川智恵子さん(佐賀在住のフルート奏者)が、この講座開講のために15年前
懸命に探し当てたところらしい。
 
3泊4日分のタイムスケジュールが配布され、ろくに挨拶も無く(新参者の私にとっては
いつの間にか、という印象で)レッスンが始まった。
 
 
 
旅館の離れにある一室を使っての公開レッスンである。
聴講する人は畳に思い思いの格好で座って、楽譜とにらめっこしながら聴いている。
 
 
 
この年はギター伴奏による古典のオリジナル作品が主な受講曲としてとり上げられてい
た(M.ジュリアーニのソナタやF.カルリの曲など)。
齊藤先生は低い、しかし良く通る声で的確なアドヴァイスや提案を投げかけてゆく。
その声音は決して相手にプレッシャーを与えず、頼りがいのある父親のような印象を
私に与えた。
“ここはこうしたらもっと意味合いが出て音楽が活き活きとしてくる”
というアドヴァイスによって受講生が演奏した時、その音楽の確かな変化に受講生自身が
ハッと気付く。その受講生自身による「気付き」を先生ご自身の喜びとされてるのが分かる。
 
 
畳の間で茫然と聴講しながら、私は頭の中で、ここに来る前仕入れた齊藤先生に関する
予備知識をただ意味も無く反芻していた。
“灘高校出身、フルートの世界的名手オーレル・ニコレの弟子、読売交響楽団首席フルート
奏者、東京音楽大学の先生、、、、”
 
 
しかし目の前の先生はそんな肩書きとは無縁の「あたたかい父親」のように私に映った。
 
(つづく)
 

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