唐人町ギター教室では、楽譜が読めない初心者の方からプロを目指している上級者まで、現役プロミュージシャンが丁寧に指導致します

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顔芸!?

 
先日レッスンに来られた生徒さんがレッスン合い間の会話の中でこうおっしゃった。
「(前略)You Tube でギター演奏の動画とか観てると、演奏の最中に顔芸やってるひと多い
じゃないですか。あれって云々、、、(後略)」
その瞬間わたしの脳みそは彼の『顔芸』という言葉によって全ての機能が停止するほど衝撃を
受けたため、あとの会話の内容は正直覚えていない。
 
 
彼の言う『顔芸』とはいわゆるミュージシャンが演奏中に無意識の内にする様々な「顔の表情」
のことであり、(ここが最も重要なポイントであるが)彼はそれを
「演奏家によるパフォーマンスの一環」
として捉えていた、という事実である。
やはり数年前に一世を風靡した「エア・ギター」の影響力であろうか、、、、。
 
 
彼の質問はいつもピュアであり、はっとさせられることが多いのだが、このことは案外他の生徒
さんやコンサートに足を運ばれるお客さんの中にも同様に感じていらっしゃる方がいるのでは
なかろうか、と思い今回ブログのテーマとしてとりあげさせていただいた。
 
 
ジャンル問わず、演奏家は演奏中様々な表情をする。
それは一体何を意味するのだろうか、、、。
 
 
二十年ほど前、関西で行われたクラシックギターのイヴェントに参加させていただいた私は
ソロで数曲演奏した。演奏後の打ち上げの雑談の中で、ある声楽家の方にこう問われた。
「松下さんって演奏中よく眼閉じてハルけど、あれってご自分の演奏に酔うてハルの?」
 
 
またそれとは別の機会だが、ピアノ教室の主催でサロンコンサートをしていただいたことが
あった。対象としては教室に通う子供たちとそのお母さん方が主で、総勢15~20名ぐらいの
お客さんを前に親密なコンサートを一時間ほど繰り広げた。
演奏後ピアノの先生からお礼の言葉を戴き、「皆さんのほうから松下さんに何か質問はありませ
んか~?」と先生が客席に振ると、ひとりの小学生が手を挙げてこう聞いた。
「演奏中眼を閉じてるのはどうしてですか?」
当時若かったわたしは虚を衝かれ答えに窮した。
するとそれを見かねてか、ピアノの先生がすかさず横からこうおっしゃった。
「眼を閉じることで、初めて見えるものもあります。」
 
 
演奏者によって理由はそれぞれかもしれない。
あるいはこれは理由そのものがない事柄かもしれない。
私の場合に限って言えば「演奏中の顔の表情」は決してパフォーマンスではないし、「眼を閉じ
ての演奏」も決して自分の演奏に酔っているわけではない。
これは決してウソではない。そんな恥ずかしいこと意識してやれるもんか!(笑)
こっちはシャイだし、そこまで自意識過剰じゃないんだ!
おまけにこっちは演奏でいそがしくて『顔芸』をやってるほどの余裕なんて無いんだ!
(ぜえぜえ、、、)
 
 
要はその音楽がその瞬間何を求めているのか、を追いかけると顔の表情はそれについてくるのが
自然というものだ。
たとえば身体を弛緩させた状態で音に「緊迫感」をのせる事ができるか?
逆に身体を緊張させた状態で「あたたかくやさしい愛のことば」を語れるか?
 
 
世の名手の中には、身体や顔の表情の表出を(それをおさえることをよしとする人にとっては)
みごとなまでにおさえ、演奏に終始できる人もいる。
わたしがそれを出来ないのは未熟ということももちろんあるが、一方では音楽を解き放つ為には
「自分の見かけやなりふりなど構いたくない」という気持ちがある。
格好悪いのは承知の上である。
自分のライヴ映像など見ると大概気分が悪くなる。
そんな時は正直、「自分の格好悪さをかえりみない強さ」が欲しいと思う(笑)。
 
わたしの夢は「イルカが海中を自在に泳ぐように演奏したい」ということなのである。
 
 
(ソロ演奏の場合特にそうだと思うが)演奏するひとは音楽の内面的宇宙に入っていくことで、
開放的になるのではないだろうか。
言い換えれば「音楽で開放的になる」というのは、その空間と共鳴しながら自分の内面的宇宙に
限りなく入っていくことではなかろうか?
 
そんな気がする。
 
 
 
 

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“顔芸!?” への2件のフィードバック

  1. ヒ・ミ・ツ より:

    > 「眼を閉じることで、初めて見えるものもあります。」
    本当に一人で一分間以上笑い転げました。
    ちなみに、私は松下先生の演奏を見て、「格好悪い」なんて思ったことはないですよ。
    あまり持ち上げてもアレですが、普通に「格好良い」です。
    特にMC。
    「あのように人前で話せるようになりたい!」と思ってしまいます。

    • ryuji より:

      ヒ・ミ・ツさま
      コメント戴きありがとうございます。
      楽しくお読みいただけてなによりでした。
      本文では書きもらしましたが「眼を閉じてソロ曲を弾く」最大の理由は、眼を開けて弾いてると『普段練習の時に疑わない部分を疑ったり迷ったりすることがある』からです。
      「つぎのポジションどこだったかな~?」とか「つぎの難所でちゃんと指が動いてくれるかな~?」など、音楽の流れや展開とおよそ関係ないことにエネルギーが吸いとられ、しかも結果うまくいかないことのほうが多いもので、、、。
      「自分を信じて眼を閉じる」(きゃー、かっこい~!)というのが実際のところ、というか理由なんです。
      あるいは別の言い方をすれば「怖いので眼をつぶって駆け抜けてるだけ」(きゃー、かっこわるい~!)なんです。

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