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”スタンダード”というものについて(その1)

 
とりあえず音楽に限定した話だと思っていただきたい。
《スタンダード》という言葉を聞いてあなたはどう感じるだろう?
(例:スタンダード・ナンバー、スタンダードな演奏、、、。)
 
 
その存在は、誰かにとっては ”ある音楽分野” の扉を叩くうえで、偏り少なく全体を把握する
ために便利なものかもしれない。
また別の誰かにとっては ”権威の象徴” のように映り、単に嫌悪感を引き起こすだけのものかも
しれない。
 
 
私が「スタンダード」という言葉を口にするときは、”公の場で採りあげられる頻度の高い
もの” を単にそう呼ぶ。そこには権威的なニュアンスは含まれない。
そしてここが肝心なところだが《スタンダード》というものは、未来永劫その価値が保証
されたものではなく、『時代と共に変化していく』いわば流動的なものだと私の場合は認識して
いる。そういうことを前提とした以下の話である、、、。
 
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音楽の中の「クラシックギター」というさらに狭いエリアの話になるが、どうもここ10~
20年の間にクラシックギター・ソロにおけるスタンダード曲の内容がゴソッと大きく変わった
ような気がするのだ。そしてついでに、もひとつ言わせてもらえば、プロにとってのスタン
ダードと一般愛好家にとってのスタンダードが乖離している気がするのだ。
私の気のせいだろうか?
そんな気がするからといって、べつにそのことに危惧の念を抱いてるわけでもないし、警鐘を
鳴らしたいわけでもない。
おそらくそれが時代に即した自然な流れなのだろう。
 
 
《30~40年ごろ前のプロ・スタンダード例》
*アリアと変奏(G.フレスコバルディ)
*魔笛の主題による変奏曲(F.ソル)
*グラン・ホタ(F.タレガ)
*ノクターナル(B.ブリテン)
*4つの小品(F.マルタン)
*5つのバガテル(W.ウォルトン)
*パルティータ No.1(S.ドッジソン)
この他、セゴビア・レパートリー、近代スペインピアノ曲の編曲、そしてもちろんバッハなど
 
《最近のプロ・スタンダード例》
*レニャーニ、レゴンディの諸作品
*森に夢見る(A.バリオス)
*ソナタ(L.ブローウェル)
*12の歌より(武満徹編)
*ピアソラの編曲もの
この他、C.ドメニコーニ、R.ディアンスなどギタリストによる作品、
なお年配(?)のギタリストに今も昔も重宝されるのが H.ヴィラ=ロボスの「前奏曲集」
である。
 
 
以上が私の偏見に満ちたスタンダード認識ではあるが、《30~40年ごろ前のプロ・スタン
ダード》は今振り返ると、ほとんどが【セゴビア・レパートリー】プラス【ジョン・ブリ
(J.ウィリアムス&J.ブリーム)レパートリー】で成り立っているのが分かる。マルタンや
ドッジソン作品など「何度も噛まないと味が沁みてこない」タイプの作品が「スタンダード」と
して愛奏されていたところがこの時代の凄みであろう(注:マルタンやドッジソン作品に関して
は海外では近年よく取り上げられており、今回の内容は日本国内についての話である)。
 
 
そして昔も今も変わらず共通しているのは「作品についてよくわからないまま弾いている人が
多い」という状況である。もちろん私の中の「作曲者がどう感じ、どう考えていたか?」は常に
仮説であり推測にすぎないので、私にとっても ”わからない” ことに何らかわりはない。
だがスタンダード曲の【作品としての質】を見ながら考えると、『プロ演奏家のわかっていない
度』に関しては、昔の方がはるかにデカかった(笑)。
それでも皆、その作品を弾き続けた。いったい何に突き動かされて?
まるで「その曲に取り組まないとプロとしての明日が保証されない」とでもいうかのよう
に、、、。
 
【パルティータNo.1(S.ドッジソン)】

 
【4つの小品(F.マルタン)】

 
 
ところが作品への理解とは関係なく、《弾き続けること》によってそのサウンドは自分の体内に
定着し、次第に愛着も湧いてくる。謎を謎として残したままでも、あるいは理解を前提としなく
とも、作品を愛することは出来るのだ。このことは私にとって非常に興味深い。
だが他ジャンルのミュージシャンよりも【そのこと】に依存する度合いが大きいのが、クラ
シックミュージシャン(ギタリストだけではない)の傾向であり、そこから脱出することだけを
ただひたすら身悶えしながら望んでいた若き日の私であった、、、。(つづく)
 
 

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