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Dystonia

ジストニアとの対話~セクション14

 

【坂場先生とのメールやりとり】

(まつした)昨日福岡市内で富川氏、池田氏と3人での企画を主催しました。
久しぶりの公のソロ演奏でしたが、この一か月間自分なりによい感触で取り組めてきただけに、終わってみて大変残念な結果でがっくりするとともに、やはりメンタルの占める割合が大きいことを痛感しています

(さかば)ソロ演奏、お疲れ様でした。
残念な結果になってしまったことはイヤな体験ではあったと思うのですが、こうして勇気を振り絞ってステージに立ったことは素晴らしいと思います。
私はもうだいぶん長いこと独奏をしておりませんが、その理由は、怖すぎて独りでステージの上に立つことが出来ないからです。
こうなってしまっては元も子もないので…ストレスの少ない範囲で定期的に独奏をするのは良いことだと思います。

(まつした)「坂場さんの状態が 最近バッチリいい状態になっている」「デュオでアルペジョーネ・ソナタを一緒にやる予定」と富川氏からうかがいましたが、、、

​(さかば)富川さんも池田さんも、底抜けにポジティブな人達なので、僕の指の回復状況につきましても楽観的な判断を下される傾向があると思います。
実際には、ここ数年間自分の状況は変わっておらず、全盛期の60%くらいの回復度なのではないかと思います。
重奏をするときも、共演者の方が気を遣ってくださるので、出来るだけラクなパートを選んだり、難しいところだけ替わってもらったり、音を抜いたりさせていただき、ようやくそれっぽい演奏が出来ているという状況です。

(まつした)その後ジストニアとのかかわりで「これは効果的だった」ということがありましたか?もしくは「自分の場合これらのメニューを信じてやり続けた結果うまく動くようになった」などがあれば教えていただけるとありがたいです

​(さかば)以前申し上げたように、ゆっくり(正規のテンポの4分の1くらいで)脱力して練習する、いわゆる「スーパースロー練習」というのが私のやり方で、ここ数年は同じように練習しています。
なので少し別の情報をシェアさせてください。
関東にあるギタリストがいて、この方は左手のジストニアを持っていましたが、ここ1~2年で急速に良くなりました。
彼はリハビリ療法で治したようです。

​↑この先生は、オンラインでグループレッスンのようなことをやっていて、それを受けたそうです。
ご参考になれば幸いです。(松下注:なんと福岡の先生!)

(まつした)よいお医者さんがいればかかりたいと思いますし、場合によっては手術も受ける覚悟はあります。視床凝固術というものに興味がありますが、従来の「反応する神経を焼き切る」というものとは別物なのでしょうか?

​(さかば)私には医学的知識がないのでこれらの違いは何とも分からないのですが、いずれにせよ、こういった脳外科手術は最終手段なのかなと思っています。
私の妻の実家が外科医の家系なので、複数人に脳の手術について相談したことがありますが、全員から反対されました。
まだ十分に確立されていない治療法は危険、ということだったと記憶しています。

また、ここからは私の直感というか妄想でしかないのですが、「ジストニアは脳のある箇所の故障だから、その特定の場所を焼けばオッケー」というのは本当なのか?個人的にはちょっと疑っています。
むしろ、やはり誤った力の入れ方を、脳と身体が全体的に覚えてしまったということなのではないだろうかと思っています。
ですから、癖のあるテクニックをひとつひとつ、正しくなるようにコツコツ練習して直していく、これしかないのかなと自分は考えています。
あくまで自分の感想でしかなく、客観的な意見ではありませんが…。

(まつした)この一か月練習が楽しく出来、不自由なりに演奏も成立していたので余計に落胆が大きかったです。
本番が終わってみないとわからないということが、なんともつらい感じです。

​(さかば)そうですね…お気持ちはすごくよく分かります。
ジストニアそのものとの闘いよりもむしろ、この気持ちのアップダウンとの闘いの方が大変…という気もしますね。
​でも練習を楽しく出来たのは素晴らしいと思います、自分はずっと楽しくない日々が続いていたので…。

周りを見てみると、治療が上手くいっている人は、どこかポジティブシンキングな人が多いようにも思えます。
そういう人は、他人の評価を気にせず、指がからまってしまっても練習や演奏を楽しもうとしているようです。
難しいですが、自分も見習いたいなあと思っています。

(まつした)しかし脳神経のことなので筋力はあまり関係ないのかと勝手に思っていたのですが、この動画を観るとそうでもないのですね?

​(さかば)はい、私も、もちろん筋肉というよりは脳神経が原因なのかなとは思っていますが、人体の構造というのは私たちが思う以上に複雑なようです。
脳が最高責任者として身体の全てを動かしているわけではなく、どちらかといえば、脳と身体がお互いに連絡を取り合いながら動いているようです。(独裁制ではなく民主制…という感じでしょうか?)
​例えば、右手にエンピツを持ったまま弾くと上手く弾けるというジストニアの人がいますが、これは手の側が出した感覚情報を脳が受け取って、動きを調整した可能性があります(感覚トリックというやつですね)。
なので、筋力が変わることで感覚その他が変わり、ひいては動きも変わることは充分ありえる…と思っています。

(まつした)東京にうかがった折にはぜひお会いしたいです。
この度もありがとうございました!

(さかば)はい、ぜひ一度お会いできればと思っております。
その折にはどうぞよろしくお願い致します。

 

2022・05・05

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“ジストニアとの対話~セクション14” への3件のフィードバック

  1. 村田陽子 より:

    昨日の桜井月夜のガーデンコンサートでは、ご出演有難うございました。実は、このカテゴリー・ジストニアに投稿することに、私みたいな門外漢には抵抗があり避けておりました。しかし、昨日の演奏会を拝聴し、改めてこのコーナーをしっかり拝読し考えが変わりました。筋肉の脱力…医学的な裏付けとは別に、ジストニアと闘いながらも、楽しく練習が出来る…この辺の演奏の鍵となるところを、出来ることなら、もっと詳しく伺いたく思いました。
    どのようにすればお時間を頂けますか?

    • 松下隆二 より:

      村田陽子さま

      昨日のコンサートでは大変お世話になりました。
      あれだけ多くのお客様に御声がけ頂き、ステージに立たせて戴けた事、本当に感謝しています。
      拙文の中にありますように、今年5月、東京の坂場先生からご紹介頂いた理学療法士の西山祐二朗先生が、幸いにも福岡の方なので幸運にも御指導と施術で現在お世話になっております。まだトレーニングの効果があらわれるまでには至っておりませんが、時間のかかることと覚悟を決め、先生の御指導を信じながら地道に励んでいる最中です。

      昨日と一昨日のコンサートでは、楽曲の八割を、エレキギターやフォークギターで使用する”ピック”という道具を使って演奏しました。使いようによってはまろやかな音色を出すことも可能であり、昨日のようなトリオやデュオのアンサンブルにおいては充分に音楽表現が実現できることから使用に踏み切った次第です。

      ただクラシックギターにおけるピックの使用に関しては、生理的に受け付けない人が多く、さらに快速なアルペジオパターンやトレモロ奏法など指弾きでなければ不可能な表現もありますので、今後もリハビリトレーニングは続けてゆくつもりでおります。

      ただ、方法が指弾きであれ、ピックであれ、クラシックであれ、民謡であれ、ポップスであれ、作品の中で起こっていることに目を向け、耳を傾けてさえいれば、同じ次元で常に楽しめるものだということを、昨晩しっかりと自覚することが出来ました。
      村田さんのおかげです。ありがとうございました。
      心から感謝しています。

      • 村田陽子 より:

        松下先生
        早速、ご返信有難うございます。
        先生の仰る〈作品の中で起こっていることに目を向け、耳を傾けてさえいれば、同じ次元で常に楽しめるものだということ〉は、私にとって、特に演奏に対する開眼めいたものを感じとることが出来たので、お時間を下さいなどと、明け透けに失礼を申しました。お許し下さい。
        ギタリストとして、ご自身の病をポジティブに捉え(そこはご本人にしか分からないことですが)闘いながら音楽の幅を拡げていくということこそが、プロだと思います。
        差し支えなければ…、理学療法治療の過程を知る事ができれば、またこのブログを訪問したいです。宜しくお付き合い下さい、有難うございました。

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