唐人町ギター教室では、楽譜が読めない初心者の方からプロを目指している上級者まで、現役プロミュージシャンが丁寧に指導致します

Dystonia

ジストニアとの対話~序文にかえて

 

   

ロマン・ヴィアゾフスキーのように

「ある時を境に」のケースもあるかもしれないが

私の場合 その兆候は「すこしずつすこしずつ」だった

 

2020年 元旦から始めた毎朝30分の基礎トレーニング

その時点で ギターに触れてからすでに42年が経過していたので

手をこわすことはなかろうとタカをくくっていた  というか

「手が痛くなったら それ以上練習をつづけない」 

という対処で腱鞘炎の危機を 

それまでかわし続けていたので

“別の危機”の存在を まるで意識していなかった

   

痛みもなく すこしずつ進行する別な危機を

他の日常生活の場面では一切あらわれることなく

楽器を手にし ある特定の運動をしたときだけ ささやかに顔を出す危機を

あなたはどれくらい早期で察知できる自信があるか

 

指をひとよりも速く正確に動かそう などと思っていたわけではない

ただせめて“ひとなみ“に動いてくれる指を手に入れようと

始めた毎朝30分のトレーニングも

反省と改善をくわえながら

4月の時点で40分に増えていた

   

いまこうして振り返ると

この “ひとなみ” “平均” “水準” といった捉え方そのものが

ジストニアを誘発する最大の原因だとわかる つまり

「(実体のない)他者と 実力をそろえたい」

そうした欲求と焦り コンプレックスに基づいた執拗な反復練習が

脳神経の回路を混線させ 誤作動にいたらせるのだ

痛みをまったく伴うこともなく

   

2020年 夏の終わりごろから 

毎朝のトレーニングで i 指の空振りが 少しずつ少しずつ増えてきた気がする

あなたならどうするか

私は泣きも わめきも 死にもせず

ひたすら“不甲斐ない自分を叱咤“しながら 

トレーニングの内容を変え かつ増やしていった

 

そして11月のある日

池田慎司さんの企画として北九州で行われた

ギタリスト尾野桂子さんの公開レクチャー

終了後の会話の中で 「近頃 i 指の空振りが多い」 という悩みを話した私に 

尾野さんが一言

「ジストニアじゃないですか 私の周りにもいます」

 

ジストニアってなんだ?

アルヴォ・ペルトはエストニアか

自宅に戻り 検索してみた

そこに書かれてある多数の症例は まさに自分に当てはまる

10か月強に渡る毎朝のトレーニングは ようやくそこで止まった

 

フォーカル(局部性)ジストニアに罹患する楽器奏者の割合としては

ピアニスト ギタリスト の数が圧倒的に多く

打楽器奏者や 口に発症する管楽器奏者も ときに存在する

ちなみに その時点で私の手に残った症状は 右手 i 指にあらわれる以下のことである

1) 指が巻き込んだ形によって生じる<空振り>

2) 指が巻き込んだ形によって生じる<ひっかかり>

3) 弦を弾こうとした時 自分の意志と関係のないタイミングで 指が勝手に動く

(2021年5月の現時点で2および3の症状は かなり軽減されているが今後どう変化するかはわからない)

 

あと私の場合 病院で専門医に

「あなたはジストニアです」

と正式認定されたわけではないが ほぼ間違いないと確信している

 

では なぜ西洋医学の医者にかからないかというと

それは いざ認定された時

病院で勧められるであろう現時点での西洋医学の治療法に

懐疑かつ恐怖を感じるから

そしてそれを拒否しなければならないという

人間関係上の手間を 私自身が億劫に感じるから  

であるが

これはあくまで私の個人的問題であるので

興味のある方は

*「一時的になら回復する」といわれる ボトックス(ボツリヌス菌)注射療法

*ギターを持った状態で手術台に上がり 誤作動を起こす脳内の神経回路を焼き切る手術

(これは言語障害のリハビリが必要になるケースもある)

*「頭のなかに電気を流し 神経を反応させる」ための電極を脳内に入れる手術

など種々の方法があるので試してみるのもよい

 

要するにジストニアに関しては 

決定的な治療法 およびリハビリ療法が

まだ現時点で確立されていないのが現状だ

私の場合は ギタリスト坂場圭介さんに勧められた 

(試行錯誤による)<自主的なリハビリ療法の道> をとることにした

 

だからといって悲観することはない

<自主的リハビリ療法>により フォーカル・ジストニア症状を克服した先輩たちが

すでに地球上に たくさん存在するのだ

そしてそういった人たちの多くも 現在 ジストニアに関する

<見解> <体験や苦悩> <症状やリハビリ過程>

これらを撮影した動画を 

You Tubeに積極的にあげている

 

では 次になにが問題かというと

ひとによって条件や症状がさまざま異なるので

「私はこの方法で治癒した」という ある人物の体験談は

あなたにとって必ずしも有効でない可能性もある ということ

<うまくいった例>

<とくに変わらなかった例>

<より悪化した例>

大切なのは これらの体験談や症例など 多くのデータをみんなで持ち寄り

その中から自分に合った考え方や方法 動作の仕方を 各自が自分で選ぶこと

私が今回 個人的な記録を公開する一番大きな理由は そこにある

 

なお フォーカル・ジストニアというものに関して

現時点でもっとも症例のデータがそろっているものとして

『どうして弾けなくなるの? / <音楽家のジストニア>の正しい知識のために』

ジャウメ・ロゼー・イ・リョベー、シルビア・ファブレガス・イ・モラス 編

NPO法人ジストニア友の会 訳(音楽之友社)

という専門書があるので ぜひ一読されたい

 

この中で私がもっとも衝撃を受け 現在も心に留め続けている あるひとつのデータがある

長くなるが以下に引用する

~「臨床経験から、演奏を行わないだけではジストニアに何ら有益な効果を及ぼさないことが分かっている。多くの音楽家がさまざまな期間、楽器の練習から離れたが、どのような類の改善も得られなかった。例えば、あるピアニストの症例だが、このピアニストはジストニアが改善しないために、完全に楽器の練習をやめると決めた。15年間楽器を弾かず、自分がかつて演奏した音楽の録音を聴くことすらしなかった。この間ずっと、ピアノを弾かなかったのでジストニアは起こらなかったため、症状にはまったく気づかなかった。その状況では自分の手が正常であるように思えたので、楽器を弾くときに起こっていた症状がどうなったかを知りたくなった。再びピアノの前に座り、最初のフレーズを弾いてみると、まるで時間の経過は関係ないかのように、まったく変わらない症状が以前と同じ強さで出現することがわかった。(後略)」~

 

私が公開する日記風の記録は あくまで私個人のデータであり

現在も試行錯誤は続いている

とりとめもなく 結論もなく

散らかり放題だが まとめることは敢えてしていない

<試行錯誤を できるだけ正直に> を心掛けている

露悪趣味は別にないので

正直でいるのにも多少の勇気は必要だが

 

罹患を自覚した当初から現在まで

私の中で変わっていないひとつの仮説がある それは

《ジストニアは 演奏フォームが原因で起こるものではない》

少なくとも私の場合にはそう感じるのだ

花粉症の発症メカニズムとジストニアのそれが

同じタイプ(長期にわたる経年蓄積型)だとすると 

《フォーム原因説》の可能性は否定できないが

私の場合「なにをどのくらいの期間どのくらいの量やった結果 発症した」というのが

比較的はっきりしているから なおさらそう思うのである

 

もし私の場合も 自身の演奏フォームが原因なら

もっと早くに発症していておかしくない(7歳からギターを手にした私は 現在50歳)

つまりなにが言いたいかというと

脱力がうまくいっていて

理想のフォームを現在 手にしていると思われる奏者にも

フォーカル・ジストニアは じゅうぶん起こりえるものだということである

 

医学に関しては ど素人なので

以下のことは信じ過ぎずに 流し読みして頂きたい

繰り返しになるが 

フォーカル・ジストニアはそのほとんどの場合

意識を超えた速度による”パターン反復”によって

脳と神経の間に すりこみの誤作動が起こるという

いわば神経回路のもつれ症状であり

痛みは伴わないことが多い

(伴っているとすればジストニアと腱鞘炎を同時発症している可能性もある)

 

ただ罹患した結果としての“フォームの悪化”は 確かにあり

フォームや動作を意識改革させることから  

神経回路を再構築し

逆算的に動作回復につなげる  ということは

罹患された諸先輩方も言及されていることであり

現在のリハビリに最も有効なひとつの手段と考えられている

そして私が現在 試していることはまさにそれである

 

ジストニア症状に関して 自分で気づいたこと 他者から教わったことのなかで

“現時点で”大切だと思うことは 太字で表している

これら “自分にとっての重要度”も 当然 日によって変化するので

いつでも流動的に変わってゆくことをお許しいただきたい

(太字で表記していた言葉が 一週間後には細字になっていたりするかも)

 

 “動き” が文章のみでイメージしにくそうなところは

記事をアップするその時点その時点での撮影にはなるが

極力 動画を添えてゆこうと思う

 

引用させていただいている他者の言葉に関しては

各出典メディアがはっきりしないものもあり

権利に関する抗議が届いた時点で削除していく

なお 直接ご本人とメールでやり取りした言葉に関しては

ご本人の ご理解ご承諾を頂いた上で公開している

この場をお借りして 深い感謝の意を表したい

 

そしてこの序文の最後になるが

この記録は まだ現時点で終わりが見えていない

要するに 私はまだ完治宣言できる状態に至ってないし

自分がいまだ ジストニア症状の入り口付近をさまよっているのか

あるいは 出口付近まで肉迫しているのか 

正直見当もつかない

そしてこの記録には 閲覧するひとにとっての

正解も 間違いも そのいずれもが 含まれていることだろう

 

つまりここには ジストニア解決の決定打や万能特効薬は無いが

ある人にとって ジストニア解決のきっかけの糸口となる“かけら”が

どこかに落ちているかもしれない

それを見つけられるのは当事者のあなただけだ

この個人的記録に 対外的な存在意義があるとすれば その一点だけである

 

2021年5月

カテゴリー:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です