【鬼怒無月】
ギタリスト池田慎司さんの御父君であるマンドリニスト池田国昭氏が鬼怒さんを評した言葉「まるでサムライみたいだ」に、私は全面的に共感する。私より六つ上になる鬼怒さんは、その佇まい、ニヒルかつ端正な顔立ち、、、こりゃ女にもてるだろう。いや実際ふくしまに行った折、ライブの主催者から鬼怒さんのもてもて伝説をたっぷり聞かされたこともある。
切れ味鋭い演奏、切れ味鋭い名前、まるで幕末の志士のような印象を与える鬼怒さんだが、私が個人的にその名を記憶したのは、NHK芸術劇場「ピアソラのすべて」が放映された折だった。バンドネオン奏者小松亮太氏がフロントのバンドで「ブエノスアイレスの夏」が演奏されているライブ映像、、、そのなかで突如ギタリストが、ワウペダルをぎゃんぎゃん踏みながらアバンギャルドなフリーソロを始めたのである。やられた、、、かっこいいじゃないのよ、、、。
その次は、雑誌のCD紹介で「ジャズ・ギタリスト紳士録」(1997)という新譜案内に目を通した時。中牟礼貞則、渡辺和津美、沢田駿吾等ジャズの大御所に混じって鬼怒さんの名前が、、、いやジャズも勿論弾くだろうが、これはウソだ、俺は知ってるぜ、このひとは”ジャズ紳士”なんかじゃない、なんたってピアソラでワウペダルをぎゃんぎゃん踏んだ人だ。このひとの精神は紛れもなくパンクだよ、、、。
遠くで時々気になる存在だった鬼怒さんが、急激に身近な存在になったのは、鈴木大介くんとアコースティック・ユニット《The Duo》を結成したことが大きい。なんとおふたりは、2010年のアルバム『ザ・シーズンズ』のなかで僕のアレンジ「朧月夜」をレコーディングしてくれたのだ。そりゃうれしい。
その後おふたりのライブの主催やステージでの共演までいろいろとさせて頂いたが、折しもコロナが流行し始め、こちらも同時期ジストニア症状に入り、なんとなく遠のいてしまった。
そこそこ月日が流れ、今年の年明け1月に、ひさしぶりに《The Duo》のステージをみることが出来た。以前からの世界観が、より一層ひろがり、深まりを見せているようだった。
ライブ後の打ち上げで、カンタベリー、ジャーマン、灰野敬二、ルー・リードなどのマニアックな話題で鬼怒さんと盛り上がるたびに、毎回鈴木くんが徐々に不機嫌になってゆくのがおもしろい(今回は斎藤優貴さんがいてくれたおかげでそこまでなかったが、、、)。
だが今回、合い間に鬼怒さんがポロっと言ったひとことを私は聞き逃さなかった。
「オレって結局、なんだかんだ言ってダムドなんだよねー」
ほれみろー!なにが紳士だー!
2025.3.20.