「芹沢先生がよく言っていたんだ。『それが仮に”偽物”だったとして、何が悪いんだ。自分がいいと思ったものに本物、偽物はない』ってね。先生の場合は僕と違って、もっとクラスの高いものだけど、他人にあれこれ言われたって、自分がいいと思ったら、その感覚や感情を大事にするべきなんだ。世の中、画一化されすぎてつまらなくなってしまったよね。もっと自分の選択眼を持つこと。ものを選ぶということは、自分に自信を持つことなんだ」
「ぼくがメキシコペルーの土細工のような素朴なものが好きなのは、見ているだけで楽しい気持ちになるから。よくこんなものを作るなあと感心する。そういう風景を見て、ものっていうのは楽しくないとつまらないと悟ったんだ。自分が作る作品もそうでありたいよね。「これが芸術?」と言われたって関係ないよ」
しかし、柚木氏のように他人の目を気にせず、いいと思ったものを選び取るのは容易なことではない。人間の心の奥底には、”センスよく思われたい”といった見栄やエゴが渦巻いているからだ。では、どうしたら自分なりの価値観を築くことができるのだろう?
「他人から貰っていたって、面白いものとは決して出会えないよ。失敗してもいいから、とにかく身銭を切ること。それを繰り返すうちに、自然と眼は磨かれていくんだ」
~柚木沙弥郎のことば(柚木沙弥郎・熱田千鶴=著)(グラフィック社)より
2025.1.19.
『偽物』の件、父もよく言っていました。「偽物だろうが本物だろうが、それが良ければそれでいい」と。「そんな事を問題にする事自体が、絵をまるで分かっていないという事だ」とも。
柚木さん、とても飄々とした方でした。松下さんもよくご存知の、ぬいやの山内さん曰く「柚木さんはね、芹沢先生の最初の弟子だったから…ずいぶん苦労されたと思うよ」。とにかく弟子たちに辛口だった芹沢先生は、弟子たちが本物の選択眼が持てるよう、厳しく接していたようです。でも、山内さんが芹沢先生の話をされる時には、遠くを見ながら、懐かしそうに、そして最後には目に涙を浮かべながら…。
良きものを良いと感じるのは、本能の働きだと思います。本能が曇らない日常が大切だと、私は思います。
今年もご一緒できる機会がありますように。
木下尊惇さま
貴重なお話ありがとうございます。
また御一緒出来る日がくるよう
今はひたすらリトレーニングに励みます。