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親愛なる先生(アルベルト・ポンセ編その1)

 
思い出話をするほどのトシでもないとは思っているが、1年間のフランス留学を終え日本に帰国
してから既に20年の年月がたってしまった。
 
 
フランス語による会話が苦手だった私にとって、一年間のフランス滞在は悩みと苛立ちの連続で
あった。帰国後少なくとも10年間は当時の生活を振り返ることもなく過ごしてきたが、最近
あることに気がついた。今現在も私が抱えている「新たな技術、能力を習得するうえでの悩み」
は、20年前つまづいた「フランス語習得」と根は全く同じなのだ、ということに、、。
 
 
フォルクローレ音楽のリズムやジャズのアドリブなど、この十年ほどの間取り組んでいるにも
かかわらずなかなか実らない原因は、つまるところ“フランス語”の場合と同じだという気がする
のである。要するに最初から100%うまくやろうとし過ぎるのだ。その気持ちでものごとの
習得に臨むと(特に人前で)失敗することに対して非常に臆病になる。
「失敗そのもの」はものごとを習得する上で絶対に必要な過程なのだ。
だがその「失敗そのもの」を避けながら過ごしたとしたら、、、?
ものごとの習得など望むべくもない。
 
 
要はものごとの習得に必要なのは「明るい失敗」「失敗からの学習」。
複雑(成熟)に向かう前に単純(稚拙)の中で思い切りあそぶこと。
 
 
 
ずいぶんと前置きが長い、、、。だがこれは個人的には必要な長さなのだ。
そして私の文章はいつだってゴールが見えない状態で書いている。
たったの一年間だが私にとってのフランス留学とは、これまでの私にとって整理したことのない
(出来ればあまり触れたくない)複雑な話題と内容であったことをまず告白しておく。
 
 
 
ギターで海外留学する今の若い人たちを見ていると、その目的や憧れが非常に具体的で、見て
いてその歯切れよさに惚れ惚れするほどである。
お恥ずかしいが私の留学はとてもそんなものではなかった。
そのころ日本で活躍し、レッスンなどでお世話になっていたギタリストに“フランス留学組”が
圧倒的に多く、かつ(当然であるが)フランス行きをすすめられた、という非常に主体性の薄い
ものだったというのが正直なところだ(もちろん主体性を持たず、予測できない出会いを楽しむ
のも選択として悪くはないが、親からお金を出してもらっている以上、本来そんな贅沢が許さ
れるはずは無い)。
 
 
 
取り敢えず福田進一先生のご紹介により、パリ・エコール・ノルマル音楽院で教鞭をとられている
アルベルト・ポンセ先生のクラスを受験できるチャンスをいただけた(今考えるとすごいこと
なのだが、当時はそのありがたみが少しもピンときていなかった)。
近代ギター音楽の父 F.タルレガ晩年の弟子にスペイン人のE.プジョール(プホールでは
ない)という人がいた。
フランスの名ピアニスト、A.コルトーがパリにエコール・ノルマル音楽院を設立した際に
初代ギター科教授として任命されたのがこのプジョールで、A.ポンセは師であるプジョールの
あとを継いでたくさんの優秀な生徒を育て上げ“名教授”と呼ばれていた。
(その“たくさんの優秀な生徒”いま私の記憶にあるだけでも、S.シュミット、酒井康雄、
R.ディアンス、福田進一、A.ヴィンジャーノほか)
 
 
あと私の留学当時ポンセ先生のお若いころのLPレコードがCDとして復刻されてあるのを
聴いた。その凄さすら当時の私にはいまひとつ響かなかった(若いというのは本当になんと
いうか、かんというか、、、)。
フランス語もほとんどしゃべれず、たったそれだけの予備知識で二十三歳のわたしはフランス
へと向かった。行けば何とかなるだろう、という甘えた根性と共に、、、。
 
 
 
(つづく)
 
 

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“親愛なる先生(アルベルト・ポンセ編その1)” への2件のフィードバック

  1. おっさん より:

    書かれていることがまるで自分のことのようで、思わずコメントしてしまいました。私はいくらか目的が明確だったかもしれませんが、練習の無理がたたり、手をこわしてしまいました。帰国してからも悶々と過ごし、今や60代も後半になってしまいました。今でもあの日々に戻りたいと思ったり、あの日々があったからその後の自分があると思ったりします。

    • ryuji より:

      おっさんさま
      コメント頂戴し、簡潔なお言葉の中にもたいへん心に沁みるものがあります。ありがとうございます!
      試行錯誤や気の迷いは現在も尽きることはありませんが、それがしあわせなことかも、、、と最近は感じています。

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