モリコーネ愛

 

プロミュージシャンは音楽をよく聴く。

 

それは当然といえば当然なのかもしれない。しかし私の場合、プロ活動を始めて以前と以後の

音楽の聴き方そのものに、自ずと違いが生じてしまった。

”以後の聴き方”というのは、つまり音楽を聴くときに「これはミュージシャンとしての自分に

どう”栄養”を与える音楽か?」「クラシックギターでアプローチが可能な音楽か?」といった

視点が意識下、無意識下に絶えずはたらき、且つ吟味してしまう感覚のことを言っている。

 

 

要するに音楽を聴くという行為が「ミュージシャンとして少しでも成長し続けたい」という

願いとつねにセットになって切り離せない、、、というのが長年続いている私の状況だ。

それはある意味、”利害にしばられた聴き方”と言い換えることもできる。

 

 

だが、少なくとも24歳以前のわたしの音楽の聴き方はそうではなかった。

その曲の魅力を分析したりする必要もなく、ただただ浴びるように音を消化していた。

それをこの場で《よりピュアな聴き方》などと定義するつもりも毛頭ないが、そこでの楽し

かった感触や思い出が、今現在の自分を支えているのも実感している。

そういった《たのしい音楽との接し方》をしているケースは、いわゆる職業ミュージシャンで

ないひとの方が私の周りには多く、これまで彼らから機会あるごとに本当に多くの音楽を

おしえてもらった。

 

 

ちなみに現在の私が、自分の活動を意識せずに(利害抜きで)音楽を浴びたい時、かけるものは

ここ数十年決まっている。クラシックギターと縁のうすいもの、、、、例えばニール・ヤングや

ルー・リードのよれよれの歌、もしくは逆にシャキッとしたドラムン・ベースやエレクトロ

ニカ系、そしてなぜかエンニオ・モリコーネである、、、

 

Ennio_Morricone_Cannes_2007_edited

Ennio Morricone (1928~2020)

 

モリコーネが世の中から注目され始めたのは、1960年代半ばから70年代前半にかけての

マカロニ・ウエスタン(もともとはスパゲッティ・ウエスタンと云った)映画の作曲家として

である。だが彼の自叙伝によると本当はクラシックの作曲家として活動したかったらしい。

ちなみに作曲に関しては、ゴッフレド・ペトラッシ(ギター曲”Nunc”など書いたイタリアの

巨匠)に師事しており、クラシック~現代音楽を正統に学んだひとなのだ。

 

 

映画そのものの評判および知名度と、彼の仕事の充実ぶりはかならずしも一致しない。

映画そのものがあまりにB級、C級すぎて”お蔵入りクラス”になってしまったものにも

彼の場合、非常に印象的ですばらしい音楽を付けているからである。

 

 

映画としての評判や知名度が高いものを、以下独断と偏見で挙げると、、、

『荒野の用心棒(1964)』『夕陽のガンマン(1965)』『死刑台のメロディ(1971)』『ソドムの市(1975)』『オルカ(1977)』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ(1984)』『ミッション(1986)』『アンタッチャブル(1987)』『ニュー・シネマ・パラダイス(1988)』『海の上のピアニスト(1998)』、、、etc.

 

そしてそれ以上の独断と好み、つまり松下チョイスによる至高のモリコーネ音楽を挙げると、、

scusi facciamo l’amore  (1967)』『ウエスタン (1968)』『1969年~1972年に手掛けたものすべて』『エスピオナージ(1973)』『ミスター・ノーボディ(1973)』『ロリータ(1997)』、、、etc.

 

 

モリコーネ音楽の魅力とは、口笛、コーラス、オーケストラ、ギター、ピアノ、民族楽器、

電子楽器その他を駆使した幅広いサウンドと、抒情的バラードから胡散臭い8ビートロックまで

の幅広いジャンルを、どこから聞いてもそれとわかる”モリコーネ流”に料理しているところ。

加えて個性的な歌い手とのコラボレーションも印象的であった。

以下に例を挙げると、、

 

*フォークの女神ジョーン・バエズとの死刑台のメロディー

*ブラジルMPB 最重要人物シコ・ブアルキとのFuneral de um Lavrador

*ピンク・フロイドの実質リーダー、ロジャー・ウォーターズとの海の上のピアニスト

*そしてもちろん、60~70年代モリコーネ・サウンドに欠かせないスキャットの名手エッダ・

デル・オルソをフューチャーした限りなくうつくしいメロディーの数々、、、、

 

 

前述の自叙伝『エンニオ・モリコーネ、自身を語る(河出書房新社)』には、面白いウラ話も

多かったが、B.スプリングスティーンについて触れている箇所は、読んでいて意味不明の金縛り

にあった。ブルースが大のモリコーネ・ファンであることは有名だが、その彼について巨匠は

こう言及した。「バンジョー、ハーモニカ、クラシック・ギターは素晴らしいです。エレキ

ギターは少し劣るようですが。(~後略)」

???

 

 

ちなみに会話の中でモリコーネの名前が出ると

「ああ、モリコーネね、、、私大好きです、、『ニューシネマパラダイス』とか、、、」

で終わることがほとんどである。つまり話がそこから先にいくことが稀なのである。

多くの人にとって、モリコーネはいわゆるあの”ニューシネマ~”のモリコーネでしかないようで

ある(ピアソラと”リベルタンゴ”の関係にも似ている)。

 

 

だが今日はモリコーネ特集だし遠慮なく言わせてもらう。

『ニュー・シネマ・パラダイス』の音楽はたしかに魅力的ではあるが、モリコーネ本来の魅力

とは別種のものである。

私が感じるモリコーネ音楽の魅力とは、そこに《すきま感》《余白》があることに尽きる。

つまり彼にとっては、映像あっての音楽であり、音楽やメロディーのみが独立で主張するものは

彼本来のすがたとは違う。彼の音楽は映像に対するクッションの役割なのだ。ときおり強烈な

クッションになることもあるが、あくまで”クッション”は”クッション”なのである。

だがぼくに言わせると『ニュー・シネマ~』はうつくしいメロディーを性急に畳み掛けすぎて、

彼本来の余白がない。なぜなら息子が作ったメロディーだからである(オーケストレーション

等はエンニオによる)。

 

 

なぜミュージシャンたちがこぞってコンサートやライヴでこの曲を採り上げるのか、これでもう

お分かりだろう。この曲は”音楽のみ”で満たされているため、音楽産業の場で成立しやすいので

ある。今回の話で仮に炎上しても全然かまわない(そこまでの影響力もないですが)。

なぜならこの件に関しては、イラつく読者よりも私のほうが確実にイラついているからである。

 

 

最後に彼本来の《情報量の薄い》、それでいて《ゆっくりと息の長い》、映像とそれを観るひと

の感性に《余白と愛とをあたえる》モリコーネ・サウンドをお楽しみいただき、お別れしたい。

 

La Bambola『Veruschka(1971)』

夕陽のギャングたち(1971)

巨匠とマルガリータ(1972)

エクソシスト2(1977)

Il gatto(1978)

 

 

2021.3.12.

 

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モリコーネ愛 への2件のコメント

  1. 木下尊惇 より:

    興味深く読ませていただきました。
    映像と音楽…『美しい日本〜百の風景(NHK)』でも、いくつか挿入音楽を作らせていただいていましたが、「映像に音楽が重なって100%となる事を念頭に…」というのをよく言われました。スピード感重視のテレビの仕事で、事前に映像を見られる事はほとんどありませんでしたが、台本に目を通して、いろいろ想像(妄想)しながら曲を作りアレンジする時に、最も気をつけていた事のひとつです。
    モリコーネさん、『しあわせの架け橋コンサート』を思い出しますね。

    • ryuji より:

      木下尊惇さま

      コメントいただきありがとうございます。

      台本だけでイメージされながら音楽を付けられたんですか!
      非常に難しいでしょうが、その分やりがいもありそうですね。

      今回のブログを書きながら思い出していたのは
      わたしのCDジャケットの絵をお父様にお願いした時のことです。

      描き終えた絵に対してお父様が
      「文字が入るだろう」
      とおっしゃったこと。
      お父様にとってはふつうのことだったのかもしれませんが
      そのお心遣いがほんとうにうれしかったです。

      コンサートの時はモリコーネご一緒くださりありがとうございました。
      『ある夕食のテーブル(1969)』でのすてきなチャランゴの響きが
      今も耳に響いています。

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