コンサートの主役

今から十年近く前になるだろうか、、、。

「胎教コンサート」のお仕事を、ある事務所から戴いた事があった。

福岡市内にあるいくつかの産婦人科をコンサートで回る、という

企画である。

“胎教”と銘打ってあるから、お客様は当然「妊婦さん」と「その家族」

という事になる。

そもそも“胎教のための音楽”や“癒されるための音楽”等は存在

しない、と常日頃思っている。「胎教になった」か「癒された」かは

あくまで結果であって、そんなもの事前に準備して“切り売り”

出来るもんか。要は(お客様や音楽を変に分類せず)音楽の素晴らしさを

伝えるコンサートならいいんだろうが!という感じで準備を進めた。

ギャラは二人分出る、という事だったのでクラシックギターの

デュオにした。相方は私にとってもっとも贅沢な相手、北九州の名手である

池田慎司さんにお願いし、本番の日まで綿密なリハーサルを繰り返した。

そうやって迎えた本番。リハは万全。体調も万全。ギターの弦も代えたし、

爪も磨いたし、、、。

ところが、、、ところがである。

いくつかの産婦人科を回るうち、我々は演奏活動の根源にかかわると言っても

いい、ある重大な事実に気付いてしまったのである。

 

 

 

それは何かというと、訪れる会場(産婦人科)によって、お客様の反応が

全然違う。ある会場では非常に盛り上がる。ある会場では非常に盛り上がらない

(演奏の後、お辞儀しても拍手すらこない)。

その事自体は別に良い。だが我々が気付いたのはそのことではない。

“我々の演奏のクオリティ”と“お客様の反応”が一切関係が無い事に気が付いた

のである。

 

 

つまり会場Aでは、演奏のクオリティはイマイチにもかかわらず、大変喜ばれ、

会場BではAより良いクオリティで、楽しく演奏できたにもかかわらず、客席の

反応が何と無く白い。

原因は何なのか。入場無料の企画だから、貪欲に楽しもうという気持ちに

なれないのかしら、、、。

 

 

そうではなかった。我々はさらに気付いたのである。

当日会場を手伝ってくれている産婦人科スタッフの顔に表れている“やる気”の

違いに、、、。

 

 

たとえば会場Aでは、事前に妊婦さん達にこの企画を伝える際「こんな楽しい

コンサートがありますよー。是非聴いて下さいね。」としっかり宣伝し、何よりも

スタッフ自身がコンサートを楽しみにしている。

一方会場Bでは、「また院長の物好きでこんな企画をやらされて、、、」という

態度がスタッフの顔の表情にありありと出ている。会場設営の動作も何と無く鈍い。

スタッフのそういうムードはお客様にも伝わるのである。

 

 

我々がミュージシャンであるが故の盲点であった。

つまり“音楽の力”のみを信じ過ぎていた。

演奏のクオリティのみがコンサートの成功を左右する、と思い込んでいた

(明らかに未熟者であった)。

 

 

あれ以来、コンサート前の主催者との関係は気にするようになった。

コンサートについて、事前に話が出来れば出来るだけ良い。コミュニケイションが

大事である。その人たちがどういう気持ちでお客さんに声をかけ、会場に誘うのか。

当日は会場でどういった人たちが動いてくれるのか。

 

 

コンサートの主役はミュージシャンではない。音楽ですらない。

「演奏のクオリティ」がコンサートの成功を占める割合は、6割にも満たない。

(私はミュージシャンであるから、演奏に対してベストを尽くすしかないのだが。)

コンサートの主役は、それに関わった人達皆(お客様も含む)で作り上げた“その空間”

そのものである。

 

2012・12・02

カテゴリー: エッセイ, 明日のギター演奏の為に, 生活の中の音楽 音楽の中の生活   パーマリンク

コンサートの主役 への4件のコメント

  1. 思わず、笑って拝読いたしました。

    胎教云々は、私はお花畑が頭に咲いている方を思っているので(失礼)

    やはり、主催者の方のパッションが、必要なのかなと。

    いつか、色んな人たちが、障害の有無も関係なく、素晴らしい音楽に触れる機会ができる世界となることを、願います。

    先生、よろしくお願いいたします。

    • ryuji より:

      いつもコメントいただき、有難うございます。

      笑って読んでいただけて幸いです。

      ミュージシャンはおだてりゃ木に登る単純な生き物なんだから、

      名演奏を引き出したかったら、そこはやっぱりねえ、、、、、。

      お客様のお力がねえ、、、。

      甘えるわけじゃあないけどねえ、、、(笑)

  2. 高橋通康 より:

    そうなのですよね
    私が老人ホームでの演奏を始めて感じたことと同じです
    毎月色々な施設で15回ぐらい半年で20か所ぐらいの施設を回りました
    でも施設によりこちらの充実感の違いがあったのです
    松下先生が仰るように結局スタッフの方の気持ちが大切なのですね
    始めたときは無料のボランティアでしていたのですが
    私の演奏をちゃんと施設のイベントとして扱ってもらえうように
    半年後から有料のイベント演奏に切り替えました
    入居者や利用者に喜んでもらいたいと言うスタッフの気持ちがある施設を事前に選別する方法が有料演奏でした
    今では月10回ぐらいに減りましたが老人施設でのイベント演奏を通して充実したギターライフを過ごしています

    • ryuji より:

      コメント有難うございます。

      月10回でもたいした数ですよね。
      自分の中でマンネリ化しないための工夫(演奏面や選曲)が、
      大事になってきますね。

      一月はレッスン会でお世話になります。
      木下さんのコンサートも是非お楽しみに、、、。

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